良い歯医者の見つけ方:その2

はじめに

『良い歯科医院』はどのように見つけたらいいのでしょうか?
結論から言いますと『良い歯科医院』 のある一定の基準はありますが、100%となると難しいですね。
特に患者さんご自身で 良い歯科医院 を選択することはなかなか大変なことです。

例えば、治療回数が長く、1回の治療時間も長い歯科医院は『下手』なのでしょうか?
治療が早く終わったから『うまい』歯科医院なのでしょうか?
もちろん治療が早いにこしたことはありません。

もしかすると本当に『下手』だから治療回数がかかったり、時間が長くかかるのかもしれません。
しかし、逆に言えば、治療が『丁寧』だからこそ時間がかかったのかもしれません。
治療が早いのは『手抜き?』だったのかもしれません。

こんなことも考えられます。
ここだけの話ですよ!
虫歯 を取(削る)時に徹底(完璧に)して虫歯 を取り除くと神経を刺激する可能性があるため、治療後に痛みが出る可能性があります。
もちろん 治療時間 もかかります。
しかし、虫歯を徹底して取り除かない先生(虫歯を取り残して治療を終了する)は、歯を削る量が少ないために あまり神経を刺激しません。
そのため 治療後に痛みがでることは少ないのです。
治療時間もあっと言う間に終わります。
場合によっては麻酔をしないかもしれません。
麻酔をしないで痛みも出ない、さらに治療時間も短い…
良い先生ですね。

また こんなこともあるかもしれません。
これもここだけの内緒の話ですよ!
できるかぎり 神経を取らないように治療する先生は 虫歯を取るにも時間がかかります。
もしかしたら、治療後に痛みがでるかもしれません。
別の先生は 虫歯の治療後に 痛みが出る可能性が少しでも考えられた場合にはすぐ神経を取ります。
後で痛いなんてクレームがでませんし、神経がないために後日 同部の治療をする時に 麻酔をする必要性がありません。
何度も麻酔を しませんし、痛みもでません。
一見『良い歯医者』かもしれません。

ちなみに神経を取った方が圧倒的に不利になりますから…
まあ こんな先生はいないと思いますが…(?)“例え”の話です。

こんな話言い出せばきりがありません。
なにが言いたいのかといいますと、患者様自身が歯科医の技量を見極めることは非常に困難だということです。
以下は『良い歯医者』を見つけるポイントです。

『良い歯医者』を見つけるポイント:その1

まずは『根管治療』がいかに丁寧にできるかというテーマです。

『根管治療』とは、『歯の神経を取り除く治療』や『以前神経を取った場所が化膿してしまった場合の治療』です。
なぜこの治療が良い歯科医院をみつけるポイントかと言いますと、『根管治療』には時間がかかり、その細かさが非常によくあらわれるからです。
また言い方は悪いですが、歯科医院によっては一番『手を抜かれる治療』だからです。
『手を抜かれる治療』理由の一つとして保険診療 の評価があります。
日本とアメリカで『根管治療』を行った場合、約10~20倍の治療費の差があります。(保険の10割負担として考えても)
もちろん日本の方が安いということになります。
アメリカでは『根管治療』は難易度が高い治療であり、時間もかかるということから治療に対する 評価が高い治療になっています。
しかし、日本ではその評価があまりにも低いのです。
日本に健康保険法ができた時、日本の歯科医療はまだまだレベルが高いとは言えない状況でした。(一部の優秀な先生を除きます)
その状態で健康保険法ができ、また、健康保険はできるかぎり多くの国民が安い治療費で受けられるというのが一つの目的あったため技術的な問題をのこしたまま 評価の低い治療となってしまたのです。

しかし、問題の多くは歯科医師自身にあったと思います。
いくら『根管治療』の評価が低くてもがんばって治療することは医療人として当然のことです。
正しい治療ができなければなんのための治療なのでしょう。

例えば、奥歯の神経を取る治療を行ったとします。
治療時間は最低でも30分はかかるでしょう。
状況によれば1時間はかかります。
そう考えると私達歯科医師は1日に診療できる人数は10人以下ということになります。
当医院では1人のドクターが1日に診察する患者様の人数は5~6人です。
それ以上は現実的に難しいからです。
しかし、1日に診察する患者様が5~6人しかいなければ病院の経営は厳しいものでしょう。
昔は1人で100人も200人も診察していた頃もあったのですから『根管治療』なんて十分できるはずがないのです。
わざと『手を抜いている』のではなく、時間がなくできていないのです。
しかし、この時間がなく、保険の評価が低いということに甘えて十分な時間をかけず、『根管治療』を行ってきた歯科医師自身に一番問題があったことは事実です。

話は戻りますが、こうしたことに時間を十分かけて行っている歯科医院は良い歯科医院のポイントです。
ただし、誤解していただきたくないのが、『手を抜いている』歯科医院は一部であるということです。
たしかに『根管治療』に十分時間をかけられない歯科医院があるのも現実的なことです。
そうした場合には通院回数は増えますが、治療を何回かに分けて行っているということも現状です。

1日の診療人数が多い歯科医院では『根管治療』に1時間以上かけることは難しいのです。
そのため『根管治療専門医』の先生は保険診療で行っていません。
『質』を第一に考えているからです。
時間や費用に治療内容を惑わされないように『医療の質』の追求をするとどうしても保険診療では無理があると考えられた先生達です。
私はこの『根管治療専門医』は非常にすばらしい先生であると思っています。
『根管治療』は審美(美容)歯科等の患者様から見える派手さはありません。
地味ではありますが、大変な治療です。
患者様のご理解を得るのも難しい治療内容です。
しかし、そうした治療に『質』をもとめて行っている姿勢こそ、医療の本当の姿かと思います。
『根管治療専門医』、もしくは『根管治療』を丁寧に行っている先生はおすすめの歯科医院であると断言してもいいでしょう。

『良い歯医者』を見つけるポイント:その2

ポイント2は『歯周病と良い歯医者』についてです。
歯科治療を行う際には『歯周病の検査』を行った方が良いでしょう。(歯周病の検査については、下記参考リンク「歯周病の治療」をご覧ください。)
特に、インプラント治療や義歯(部分義歯)を作製する時には絶対に必要です。
もし、歯周病がある状態でインプラントを行うと インプラントにも歯周病細菌は感染(インプラント周囲炎:下記参考リンクをご覧ください。)しますし、天然歯がダメになれば またその部位にインプラントを行うことになるかもしれません。
一度治療した部位がきちんと問題なく残っていくためにはまず最初に十分な検査を行うことが大切です。

義歯にしてもそうです。
歯がないから部分義歯にするわけですが、残っている歯がまたダメになったら、抜歯をし、新しく義歯を作製することになります。
こうしたことを繰り返すうちに歯がどんどんとなくなっていき、最終的には総義歯になっていくのです。
そうならないためにも最初に徹底した検査は大切です。
十分な歯周病の検査を行うというのは歯科治療において大切な条件です。
逆に言えば、十分な歯周病検査および治療を行っていない歯科医院は問題があると思います。

歯周病を主訴として当医院に来院される患者様の多くは、今までに歯周病の検査を受けたことがないと言います。
『もっと早く、歯周病の検査を受けていれば…』と思います。
歯周病の検査さほど難しくない検査です。
特別な検査器具が必要なわけではありません。
歯周病の治療を希望された患者様に『今まで歯周病の治療を受けたことがありますか?』と質問しますと、何人かの患者様は
『はい』『歯石を時々とってもらっていました』
と言われます。
ある程度進行した歯周病の場合、単に歯石を取るだけでは治療にはなりません。
きしんとした歯周病の治療が必要です。
十分な歯周病の検査ときちんした歯周病の治療を行っている歯科医院こそ『良い歯科医院』の一つの基準です。

『良い歯医者』を見つけるポイント:その3

次のテーマは『環境設備がきちんとしている歯科医院は良い歯科医院』という話です。
環境設備の中でも特に『インプラント手術における環境設備』(下記参考リンク「インプラント治療における滅菌」参照)についてお話したいと思います。
インプラントが成功するためには衛生環境はかかせないことです。
そのためにはインプラント手術を行う場所は『専用の手術室』が適切であると考えられます。

もちろん『専用の手術室』を備えていることが良いですが、増えてはいるものの全ての歯科医院に手術室があるわけではありません。
手術室がない歯科医院の方が多いかと思います。
インプラントは外科処置ですので手術室で行う必要性がありますが、手術室がない歯科医院でもインプラント手術は可能です。
インプラント手術の中でも 簡単な治療で20~30分程度で終了するような手術であれば 通常の歯科診療台でも問題ないかと思います。

しかし それには条件があります。
まず
『インプラントを行う前に徹底して診療台を“ 滅菌薬 ”等できれいにすること』、『インプラントを行っている隣で歯を削っているような環境ではないこと』、『病院内が比較的ほこりのたたない空気のきれいな時間帯(朝一番とか)に行うこと』
等が一つの条件かと思います。

今まで通常に歯を削っていた場所で、滅菌管理もせず、隣では普通に診療しているような環境では良い治療はできません。
インプラント治療を受けられる際には専用手術室ではなくても どのような環境で行う(治療の時間帯も…)のか聞いてみるとよいでしょう。
インプラント手術に際してどれだけ先生が注意をしているかということは大切なことです。
もちろんインプラントの成功はインプラント治療を行う術者の技術的な部分が大きいのですが、この衛生環境も大切なことです。
『インプラント手術を行う環境が整っている歯科医院は良い歯科医院』の一つの基準です。

『良い歯医者』を見つけるポイント:その4

次のポイントは『治療計画著がきちんと作られているのは良い歯科医院』という話です。
歯科医院にて治療計画書をもらったことはありますか? 治療計画書とは

  • 検査の結果
  • 治療の診断(名)
  • 検査の説明(状態の概要)
  • 治療方法(どんな治療方法があるのか、治療方法の選択)
  • 治療期間(治療回数)
  • 治療費
  • 保証

等です。
(詳しくは下記参考リンク「治療計画書見本(患者様にお渡しする実際の治療計画書です)」、「インプラントの治療ステップ 」、「インプラント治療にかかる期間と回数」、「歯の欠損別におけるインプラントの使用本数及び治療費」、「インプラント長期保証」をご覧下さい。)
虫歯1歯の治療等の場合、このような細かい治療計画はないかと思いますが、『多数の治療が必要で処置が口腔内全体になるような場合』、『歯周病治療等で治療期間が長い場合』、『インプラントや審美歯科等で治療の費用がかかる場合』等はどうしても治療計画が必要です。
患者様にとっても上記の1~7のようなことは当然知りたいことです。
また歯科医師側にとっても治療計画をきちんとたて書面で保存しておくことは非常に大切なことです。

でもこの治療計画を作製するのは結構大変なのです。
私も毎日治療計画をたてているのですが、多い日で1日5~6時間はこの治療計画の作製に時間がかかります。
少ない日でも2時間以上は治療計画作成を行っています。
新規の患者様が多かった時には1日の大半が治療計画作成の時間になります。
特に複雑な症例ではまず資料をまとめることにかなりの時間がかかります。

例えば、噛み合わせの問題があると思われた場合、歯型を取り、患者様の噛み合わせを再現するために『咬合器』という装置にその歯型を装着します。
これにより患者様個人の噛み合わせが再現できるのです。
そして再現された咬合器上の患者様の模型で問題点を見つけたり、治療の方針をたてるのです。

また撮影したレントゲンはコンピューター処理を行い、コンピューター上で治療のシミュレーションを行います。
特にCT撮影を行った場合には3次元のレントゲンシミュレーション を行います。
こうした治療のシミュレーションは、例えば、インプラント治療をご希望の場合にはインプラントシミュレーションとして患者様にもプリントアウトしたものをお渡ししています。

また治療が口腔内全体になるような場合には検査としてお口の中の写真(通常の風景等をとるようなデジタルカメラです)を治療の前(初診時)や治療途中、治療後に撮影します。
特に初診時の口腔内の写真は大切です。

治療が進むと最初(初診時)の状態は分からなくなってしまいます。
もともと どのような状態であったのか?
噛み合わせはどうだったのか?
歯肉の状態はどうであったのか?
が治療が進むと分からなくなってしまいます。

また複雑(難しい)なケースの場合、1人の歯科医師が全て担当するのではなく、できるかぎり多くの歯科医師 が治療計画に携わります。
1人の歯科医師の考えでは正確な治療計画にはならないかもしれないからです。
1人の症例に対し、できるかぎり多くの歯科医師でディスカッションすることにより、治療計画の片寄りをなくすことができます。

また治療途中での写真は治療を進めていく中で、再度検討する資料として大切なことです。
患者様1人、1人の治療を行うためにはその裏でかなりの時間がかかっているのです。 またこうした治療計画がなければ、治療はうまく進みません。
また治療が複雑なケースや 時間(期間)がかかる場合、口腔内全体的な治療の場合には、診療を受ける患者様にとっても適切な治療計画がないと不安なものです。
まず先にあったような(1~7)治療計画書をもらう必要性があります。
『徹底した検査と治療計画書がある歯科医院は良い歯科医院』の一つだと思います。

『良い歯医者』を見つけるポイント:その5

次のポイントは『メインテナンスをきちんと行っている歯科は良い歯科医院』という話をしたいと思います。
歯科治療が終了したら メインテナンス(定期検査)(下記参考リンク「インプラント治療が終わったら」参照)は重要です。
専門的にはこのメインテナンスは2つに分かれます。
日本歯周病学会での考え方では『定期検査』は以下の2つに分類されます。

1. 『メインテナンス』
2. 『サポーティブセラピー』
です。
なにが違うのかと言うと
 1の『メインテナンス』はいわゆる定期検査です。
時々歯科医院に来てもらい、歯周病や虫歯、噛み合わせ等に問題はないか?等をチェックするものです。
『経過観察』という意味合いが強いものです。 2の『サポーティブセラピー』は歯科医院側が主導となって定期的に歯石と取ったりすることです。
これは特に歯周病の患者様に対して行うものです。
『良い状態を維持するための 歯科医院主導型の 積極的な口腔清掃』という意味合いが強いものです。

歯周病は一度治療を行っても再発がしやすい疾患です。
再発の原因はいくつかありますが、第一の原因は汚れです。
簡単に言いますと歯ブラシで取れなかった食べかす(汚れ)です。
毎食後に歯ブラシを100%(完璧に)行うことは困難なことです。
そのため、『定期的に歯科医院にてその不足分を補っていきましょう』ということです。
『サポーティブセラピー』はサポート(手伝う、補助する)セラピー(治療、処置)を合わせた用語です。

そして『サポーティブセラピー』で歯科医師もしくは歯科衛生士が行う口腔清掃を『プロフェッショナル・トゥース・クリーニング』と言います。
『メインテナンスをきちんと行っている歯科は良い歯科医院』ということです。
続きは下記をご覧下さい。
良い歯医者の見つけ方:その3