インプラントの構造

はじめに

この項のテーマは『インプラントの構造』です。
構造ってどんな話?
例えば、車であれば、タイヤ、エンジン、バンパー…等
さまざまな部品で作られていますよね。
インプラントも車のように複雑ではありませんが、いくつかのパーツで構成されています。

ここではインプラントの基本構造について解説したいと思います。
結構、マニアックな話になりますが、『インプラントについてもっと知りたい!』と思われる方は是非御覧になって下さい。 他のホームページにはあまり記載していない内容ですので…
その前にインプラントとはどうしてできたのか?
インプラントの歴史について簡単に解説したいと思います。

インプラントの歴史は1950年にスエーデンの化学者ペル・イングウァール・ブローネマルク博士の発見から始まります。
ブローネマルク博士は純チタンが骨と拒否反応を起こさず、チタン表面の酸素の膜を介して非常に強く結合することを発見しました。 これがブローネマルクインプラントです。
その後1965年に臨床応用され、2000年までに、世界中で約60万人の患者さんがこのインプラントの治療を受けています。

インプラントの構造

インプラントの基本構造は下図のようになっています。

  • インプラント本体:『フィクスチャー』と言います。
  • アバットメント:被せ物の歯を付ける『土台』のことです。
  • 上鵜構造『補綴物(ほてつぶつ)』とも言います。:被せ物のことです。

インプラントの構造は大きく分けてこの3つから成り立っています。

インプラントの構造

インプラント本体(フィクスチャー):その1

インプラント本体については いくつかの項目にわけて解説します。

1. インプラントの材質

まず、インプラント本体の素材は純チタンでできています。
これは現在使用されているインプラントメーカーのほとんどが採用している素材です。
その理由として生体内で安定し、骨と結合する最も優れた材質だからです。
そして純チタンインプラントは腐食したり、それ自体の寿命(耐久年数)はありません。
現在、純チタンインプラントを製造、開発しているメーカーは世界中で約200社あります。
当医院で主に使用しているインプラントは スイス製、ストローマン社の『I.T.Iインプラント』です。
この『I.T.Iインプラント』の材質は、全て純チタン(グレード4:ISO 規格5832/Ⅱ)です。
以前はチタン以外に『人工サファイヤ』等がありましたが、これらは骨と結合(くっつく)しないため、現在ではまったく使用されていません。

2. インプラントの形態

インプラント本体の形です。
なぜ 形の話?
それには歴史的に理由があるからです。
インプラント本体の形はどんどんと変化してきました。
インプラントが初めて誕生した頃の形態はすでに存在しません。
現在のインプラントの形態は『歯根型』になります。
つまり、天然歯の根と同じような形態です(支柱のような棒状型)。
それでは以前のインプラントの形態はどのようなものだったのでしょう?
インプラントの初期にはさまざまな形態がありました。
その一つとして『プレート型インプラント』がありました。
『歯根型』はボールペンのように“棒状”ですが、『プレート型』はその名のとおり、『かまぼこの板』のようなものです。
そのため、『歯根型』と比較すると結構大きなものになります。
大きさ(長さ)は2センチ程度から5~8センチくらいになるものもありました。
ちなみに現在の『歯根型インプラント』は直径が4~5ミリ程度ですので、以前の『プレート型』がいかに大きいものだったかわかると思います。
こんな大きな『プレート型』を骨に埋め込むのですからさぞかし、大変だったと思われます。
(もちろん私はプレート型を使用したことがないので…)

歴史的なことはこれくらいにしましょう。 現在のインプラントの形態は先程書きましたように『歯根型』になります。
そして同じ『歯根型』でも各メーカーによりその形は若干異なります。
まず、ほとんどのインプラントメーカーが採用している形態が『スクリュータイプ』です。
簡単に説明すると『ネジ』です。
治療する側にとっては手術時のインプラントの安定性が適格にわかるため非常に使いやすいタイプです。

次に『シリンダータイプ』です。
現在一部のインプラントに採用されているのみです。
簡単に説明すると『筒型』です。
治療術式は簡単ですが、1回法には適していなく、2回法で手術後の安定が保てる場合に適しているタイプです。
後で説明する『ハイドロキシアパタイト インプラント』でわりと多く使用されているタイプです。
『ハイドロキシアパタイト インプラント』はハイドロキシアパタイトという粒子(粉?)をコーティング(まぶす)して作製しています。
そのため、ネジのように回転力をかけてねじ込むと剥がれてしまうこともあります。
そのような場合にはネジタイプではなく、シリンダータイプが良いとされています。
また、“ ネジ ”タイプが主流となっている理由の一つとして骨の中に『筒型』を入れるよりも『ネジ型』で回転量をかけた方が骨との安定が良いということです。

次に『テーパータイプ』です。
簡単に言えば歯の根と同様の形をしているタイプです。
この天然歯と同じ形態であることが大きなポイントになります。
先程の『シリンダータイプ』は空き缶のように上から下まで同じ太さの筒になっていますが、『テーパータイプ』は先端が細くなっています。
逆に言えば、上の部分が太くなっているとも言えます。
このような『テーパータイプ』ですが、当医院で使用しているI.T.Iインプラント(ストローマン)では、『I.T.I TE TMインプラント』という名称で2003年に商品化されています。
また話は長く難しくなりますが、この『I.T.I TE インプラント』の臨床背景と理論的根拠についてお話しします。
歯がなくなると(抜歯すると)、歯を支えていた周囲の骨はどんどんと吸収(溶けて)してしまいます。
そのため、抜歯後にインプラントを行おうと思っても、骨の吸収のため、インプラント手術が確実に行えない状態になっていました。
つまり、今までの考え方では抜歯してからインプラントを埋入するまでには2~6ヶ月待つ必要性があったからです。
もちろん患者様にとって待つということはその期間は歯がないということです。
そうした抜歯後の骨の吸収による問題と治療期間の短縮という観点からインプラント埋入のための新しい考え方ができたのです。
それが、『抜歯即時インプラント』です。
しかし、抜歯即時インプラントには欠点がありました。
以下のような問題点です。
抜歯と同時にインプラントを行う場合、抜歯部の穴の大きさとインプラントの太さ(幅)には違いが生じてしまいます。
通常抜歯部のほうが幅が大きいので、インプラントの周囲には隙間(ギャップ)ができてしまいます。
この隙間を埋めるためにGBR法という特殊な方法が用いられてきました。
詳細は以下をご覧下さい。 骨再生法(GBR法) この治療法を用いるとインプラントと骨との隙間に骨を再生させることが可能になります。
しかし、インプラントとの隙間が大きかったり、インプラントの初期安定性が得られない場合には適応しづらいこともありました。

またGBR法は技術的に難しいことも多いため、抜歯と同時のインプラント埋入には限界がありました。
こうした問題を解決すべく、開発されたのが、先程の『I.T.I TE TMインプラント』です。
この新しいインプラントは抜歯した部位への使用を目的として開発されたもので、抜歯部との隙間を最小にすべく、テーパー上の形態になっていることと、骨との安定をよくするためピッチ(ねじ山の間隔)が狭められています。
この続きは以下を参考にして下さい。
抜歯即時インプラント

『テーパータイプ』は初期固定性と審美的な効果が得られる新しいタイプのインプラントです。
インプラントの形態としては今後、『ネジ型』で、『テーパータイプ』が主流となってきます。

インプラント本体(フィクスチャー)

インプラント本体(フィクスチャー):その2

3. インプラントの表面性状

インプラントの表面は“つるつる”ではなく、細かい凹凸があった方が骨との接触が非常に良いことが 多くの研究によりわかっています。
そのためインプラント表面に凹凸をつけるための工夫がされています。
現在、インプラント表面の処理の主流となっているのが、『サンドブラスト処理』、『酸エッチング処理』です。
この表面処理をしているのが、私が主に使用している『I.T.Iインプラント』です。
この表面処理を『SLA表面(サーフェイス)』と言います。( Sand blasted , Large-grit , Acid-etched )の略です。
『SLA表面(サーフェイス)』は画期的なできごとと言ってもいいでしょう。

ここでちょっと話は長くなりますが、インプラントと骨の結合期間と『SLA表面(サーフェイス)』の誕生について説明致します。
通常、インプラントと骨との結合が完了する期間は 今までは3~6ヶ月(場合によっては1年)かかっていました。
しかし、1999年にI.T.Iから10年以上の研究期間を経て最新のインプラントが開発されました。
これが、『SLAインプラント』と言われるもので、骨との結合期間が非常に短くなっています。
骨との治癒期間は最短で『6週間』となり、患者様の負担もだいぶ少なくなりました。

さて話をインプラント表面に戻します。 『SLA表面(サーフェイス)』以外の表面処理法を行ったインプラントもあります。
『ハイドロキシアパタイト処理(コーティング)』というものもあります。
これは骨が柔らかい部分では非常に優れてた効果があるという報告がありますが、アパタイトの種類によっては経年的にアパタイトが溶解したり、操作時にアパタイトが剥がれたりするという報告もあります。
しかし、ハイドロキシアパタイトインプラントの信頼性は各種製作メーカーにより違いが大きくあり、メーカーによっては上顎では5年経過で成功率は96.6%という高いデータもあります。
信頼できるメーカーによってはハイドロキシアパタイトは非常に良いものであると思います。
当医院においても骨の状態によりハイドロキシアパタイトコーティングしたインプラントを使用することがあります。(頻度としては少ないですが…)

アバットメント

最初のところで書きましたように『アバットメント』は被せ物を装着するための『土台』です。 設計によって様々な種類があります。 『アバットメント』には大きく分けて

  • 1. 上部構造をスクリュー(ネジ)で固定する方法
  • 2. セメントで固定する方法

があります。

『スクリュー固定』は具体的に言うと、型を取ってできた被せ物を接着剤で付けるのではなく、『ネジ』で固定する方法です。
完成した被せ物の噛む面や被せ物の横の部分にメガネで使用するような『小さなネジ』が付いています。
インプラントとはこの『ネジ』で固定されることになります。
インプラントに被せ物を取り付ける際に、ドライバーのネジのようなもので、締め付けて固定します。
『スクリュー固定』の最大の特徴として『取り外し』ができることです。
この『取り外し』ができることは将来性を考えた場合、非常に利点となります。
被せものが『セラミック』や『ハイブリッドセラミック』のような白い材質の場合、噛む力や歯ぎしりの程度等によりますが、磨り減ったり、欠けたりする可能性があります。
もし、欠けたりした場合、『取り外し』ができれば、一度取り外して修理できます。
長期間の間に磨り減った場合でも取り外し、修理が可能になります。
また、万が一、インプラント自体に問題があった場合、取り外しができた方がその後の治療を行いやすいという利点があります。
欠点としては歯に収まるような『小さなネジ』を被せ物に埋め込むため、非常に複雑な構造になります。
作製する被せ物の形も大きくなりやすいため、人によっては違和感がある場合があります。
作製するのも大変です。
そのため、コスト(費用)がかかることがあります。

また小さな『ネジの穴』が歯の『噛む面』に設定されることがあります。
こうなると『穴』が見えてしまうことがあり、審美的に問題が生じることがあります。
また『ネジの穴』は噛む面の約30%を占めるため、噛み合わせを厳密に調整しなければなならいケースでは対応が難しいことがあります。
さらに時々ネジが緩むことがあります。
これは毎日、毎日、強い力で噛むことにより、ネジが回転し、緩むのです。

次に『セメント固定式』の利点、欠点になります。
まず利点として、『スクリュー固定』にあった『穴』がないため、審美性に優れ、細かい噛み合わせの調整が可能です。
また、『スクリュー固定』に比較して作製が比較的簡単に行えるため、完成した被せ物のエラー(不適合等)が少ないもの利点です。
また欠点としては、インプラント埋入に際し、審美性を重視して行った場合に起ることがあります。
前歯部の場合等、インプラントを審美的に行う場合、インプラントと上部構造(被せ物)の境目が見えないようにこの境目の部分を歯肉の内部に設置します。

なんのことだかわからない方のために、天然歯において被せ物を行う際の治療方法について解説します。
通常、天然歯を削って、被せ物を行う時には、削る境目をどこに設定するかは、前歯、奥歯等により異なります。
奥歯は削る境目を歯肉と同じ位置もしくは若干歯肉より少し上に設定します。
つまり、被せ物と削った境目が歯肉の上になり、直接見える状態にします。
こうすることにより、境目に直接歯ブラシを当てることが可能となります。
また、被せ物は接着剤でつけますので、つける際にできる余分な接着材を取り除くことが確実に行えます。
しかし、削った境目が歯肉の上に直接見えるということは前歯では審美的に問題を生じることがあります。
そのため、前歯等の審美性を重視する場合にはこの境目を歯肉の中(約1~1.5ミリ)に設置します。
境目は歯肉の内部にあるため、審美的には優れていますが、問題点もでてきます。
一つは型を取ることが困難なため、エラー(再度型を取ったり、完成した被せ物がぴったりと合わない等)がでてきます。
次に先程あった、境目にある余剰な接着剤を正確に取り除くことが難しいのです。
これは余剰な接着剤がきちんと取り除けたか確認することが困難であることとつながります。
もし、余剰な接着材が歯肉内部に残るとそれが、原因で炎症が起ります。

話は長くなりましたが、審美性を重視する部位にインプラントを行う場合、インプラントと被せ物の境目を歯肉の内部(歯肉縁下1~1.5ミリ)に設定しますので、接着剤を取り残す可能性があります。
審美性重視するために、歯肉縁下にインプラントを埋入した場合には『スクリュー固定』との方が優れていると言えます。

その他にも利点、欠点はありますが、 『スクリュー固定』と通常の接着剤を使用してつける『セメント固定式』はその状況により使い分けているのが現状です。
当医院では前歯を除く、奥歯で、1~4歯程度であれば、『セメント固定式』を行うことが多く、前歯部 や 被せものの数が多い場合 には『スクリュー固定』にしています。
また、多数のインプラントにてブリッジとする場合には半分『セメント固定式』にし、残りの半分を『スクリュー固定』にすることがあります。
ブリッジ全てを『スクリュー固定』にすると先程あった、ネジの緩みやネジ穴の問題が生じることがあるためです。

それでは実際には『セメント固定式』と『スクリュー固定』はどちらが使用されているのでしょうか?
1999年に Misch が報告したデータによると全米のインプラントの固定方法の85%以上は『セメント固定式』であった。 とされています。
それぞれの特徴を生かして使用することが大切です。

※ ちなみにこの『アバットメント』は結構高価です。
インプラント本体よりも ちょっとだけ安い程度です。
歯科医院によってはこのアバトメントの料金はインプラントとは別になっていることがあります。
そのため、単にインプラントの料金だけをみてもトータルの費用がわからな ければ、費用の判断にはなりませんので、ご注意して下さい。
当医院ではインプラント(21万円:消費税込み)の中にアバットメントの費用が含まれています。

アバットメント

上鵜構造『補綴物(ほてつぶつ)』

インプラントの被せ物には大きく分けて以下の3種類があります。

  • セラミック(オールセラミックを含む)
  • ハイブリッドセラミック
  • 金属

それぞれの特徴について解説します。
まず、『セラミック』と『ハイブリッドセラミック』の違いですが、『セラミック』はいわゆる陶器(瀬戸物)と同じようなものです。 変色はせず、審美的に最も優れています。
また 汚れが付きにくく、歯周病のような方や、ブラッシングが十分できない方には適しています。
欠点としては非常に硬いため(天然歯よりも硬い)、噛み合う歯が天然歯の場合には天然歯が磨り減ってしまうことがあります。
特にインプラントは、骨と強固に結合しているため噛み合う歯が歯周病にかかっている天然歯の場合には、負担がかかる可能性があります。

次に『ハイブリッドセラミック』ですが、素材としては『セラミック』に『レジン』という物を配合して作っています。
『レジン』とは プラスチックのようなものです。
この『レジン』を配合することにより硬さを天然歯とほぼ同程度にすることができます。
噛み合う歯が天然歯の場合には天然歯を磨り減らしたりする危険性が少なくなります。
また、『セラミック』はその性質から欠けたりすると修復することが困難な材料ですが、『ハイブリッドセラミック』の場合には、もし 欠けたとしてもある程度であれば口腔内で修復が可能です。
しかし、欠点としては『セラミック』に比較して審美的には若干劣ります。
レジンは吸水性があるため若干の変色を起す可能性があります。
またその吸水性のため汚れを付着しやすいという欠点があります。

被せ物は一般的には上記の2種類ですが、奥歯で審美的に問題がない部位は金属製の被せ物がよろしいかと思います。
金属ですが、噛み合わせの長期安定からすると最も優れている材質です。
長期的には『セラミック』や『ハイブリッドセラミック』と同様に若干は磨り減りますが、かけたりすることはありません。
インプラントの被せ物としては一番お勧めです。
しかし、欠点として金属製ですので見た目に問題があります。
最も奥歯であればよいかと思いますが、少し手前になると見えてしまいます。
そのため多くの患者さんは金属を避ける傾向にありますが、私達からすると安全性の高い金属がいいと思います。

結論としてどれが優れているということではなく口腔内の状態により使い分ける必要性があるかと思います。
見える前の部分をセラミックやハイブリッドセラミック、見えにくい奥歯の部分を金属にするという方法もあります。

また上顎の場合、歯の表面(見える部分)のみ白くし、噛み合う部分(咬合面と言います)のみ金属にすることがあります。
基本的に上顎の場合、噛み合う部分(咬合面)は見えませんので、この部分のみ、欠けたりしない材質(金属)が望ましいと思われます。

また歯周病等の問題がある方は汚れが付着しないセラミックがいいでしょう。
被せ物の材質は噛み合わせや歯ぎしりの有無、審美性、歯周病の状態等さまざまな条件から考えていく必要性があります。
口腔内の状態に合わない材質を使用するとトラブルの元になります。
一生使用していく歯ですから問題が起らないことが大切です。

参考リンク