ノン・クラスプ・デンチャーとは?

審美性の高い金具なしの義歯ノン・クラスプ・デンチャー

現在義歯を使用されている方で、義歯の金具が審美的に問題があるという方の情報です。

『ノン・クラスプ・デンチャー』とは、部分入れ歯の金具(バネ)がないものです。
『金属の止め具がない入れ歯』とも言います。
現在義歯を使用している方はわかるかと思いますが、部分義歯(入れ歯)には、入れ歯が動かないようにするための金属製の金具(バネ、止め具)が付いています。
この金属製の金具(バネ、止め具)が審美的に問題を起こすのです。

当医院でも、義歯はなんとか使用できるが、『金具が見えてしまうため、どうにかならないか?』というご要望がよくあります。
保険診療の部分義歯の場合、どうしてもこの金属製の金具(バネ、止め具)が存在します。

『ノン・クラスプ・デンチャー』は、金属製の金具(バネ、止め具)の代わりに、プラスチック製の義歯床で義歯を支えます。
そのため、口を開けてもが金属製の金具(バネ、止め具)見えないので、審美性に大変優れています。
さらに、破折に強い素材で歯肉の色調と同化するのが今までの部分入れ歯とまったく違うところです。
日本では最近になって知られるようになりましたが、アメリカでは50年以上の実績があります。

『ノン・クラスプ・デンチャー』症例

下写真右が『通常の義歯』になります。
左が『ノン・クラスプ・デンチャー』です。

ノン・クラスプ・デンチャー症例

『レスト』付き『ノン・クラスプ・デンチャー』

『レスト』とは、義歯の沈下を防ぐための維持装置のことです。
義歯は、噛むと沈み込みます。
義歯が沈み込んでしまうと、義歯のプラスチック部分が歯肉にぶつかり、痛みが出てしまいます。
また、沈み込むことにより、義歯自体も安定しません。
特に『ノン・クラスプ・デンチャー』は、義歯を支える金具(クラスプ)がないため、ケースによっては、通常の義歯より安定が悪い場合があります。
そこで、義歯の沈下防止や安定のために、『レスト』が必要になってきます。
この『レスト』は金属でできています。

※ 下の写真を参考
写真のように『レスト』は、歯の噛む部分に設定されます。
上顎の『ノン・クラスプ・デンチャー』では、『レスト』が付いていても見えることはありませんが、下顎の場合には、見えることがあるかもしれません。
※ ただし『レスト』は、非常に小さいため、通常は目立ちません!
義歯の安定が良い場合には、『レスト』は必要ありませんが、義歯の安定が悪い場合には、『レスト』は必要です。

レスト付きノン・クラスプ・デンチャー

適応症、禁忌症、利点、欠点、作製方法、費用、お手入れ方法

適応症

金属製の金具(バネ)がないため、義歯との固定は、義歯の床(ピンク色のプラスチックの部分)を歯の出っ張りに引っ掛けて固定します。
この歯の出っ張りのことを『アンダーカット』と言います。
『アンダーカット』は、『ノン・クラスプ・デンチャー』が動かないための『引っかかり』なのです。
『アンダーカット』が少ない場合には適応となりません。

ノン・クラスプ・デンチャーの禁忌症

  • アンダーカットが少ない場合
  • 欠損が多い場合(最低でも3~4歯は、残存していないとできません)
  • 片側のみの欠損で、奥歯がまったくない場合(前歯のみでは、義歯を維持させることができないため)

ノン・クラスプ・デンチャーの利点(適応患者様)

  • 金属の金具が見えて気になる方
  • ブリッジのように健康な歯を削りたくない方
  • インプラントによる修復が困難な方(手術が怖い、十分な骨量が無い、金額的にもっと抑えたいなど)
  • 金属アレルギーの方

ノン・クラスプ・デンチャーの欠点

  • 保険適応でない。
  • どんなケースでも作製できるわけではない。
  • 使用する素材(スーパーポリアミド樹脂製 )によっては、修理が困難。
  • ※ 素材については、次の項目で解説します。

ノン・クラスプ・デンチャーの作製手順

通常の義歯と同様の作製手順です。
ただし、先に記載したように適応症かどうか確認(アンダーカットの程度確認)するための診査(型を取り模型上で確認)が必要な場合があります。
※ 診査の結果、『ノン・クラスプ・デンチャー』を行っても維持ができないケースも稀にあります。

欠損数が少ない場合の作製手順

1回目:型取り
2回目:完成(作製期間は約10日程度)
※ 完成後、調整等に何回かいらしていただくことがあります。

欠損歯数が多い場合の作製手順

1回目:型取り
2回目:噛み合わせの確認
3回目:歯の形態等の確認(2回目から約1週間後)
4回目:完成(3回目から約1週間後)
※ 完成後、調整等に何回かいらしていただくことがあります。

ノン・クラスプ・デンチャー治療費

片側だけの義歯:100,000円(消費税抜価格)
両側にまたがる義歯:120,000円(消費税抜価格)
※ 上記の写真は、片側の写真になります

ノン・クラスプ・デンチャーの義歯のお手入れ方法

柔らかい義歯用歯ブラシ(通常の歯ブラシでも良い)で食後 に十分汚れを落として下さい。
中性洗剤を使用し、歯ブラシ等で洗浄されると効果的です。
義歯専用の洗浄剤は義歯が劣化する可能性がありますので、 ご注意下さい。 使用しない時は、水の中に入れて保管して下さい。

ノン・クラスプ・デンチャーのマニアックな話

『ノン・クラスプ・デンチャー』の種類

『ノン・クラスプ・デンチャー』と言ってもさまざまな種類があります。
使用する材料や作製する会社によりその性質は違います。

使用する材質による種類(違い)

1. 『スーパーポリアミド樹脂製:ナイロン系』

利点

この樹脂の特徴として、義歯自体が非常に柔らかく“たわみ”があります。
そのため、破折がしくにいのが特徴です。
破折しにくいということは、樹脂の厚みを薄くできるため、違和感が少ないのが特徴です。
ノン・クラスプ・デンチャーの素材としては、優れているとして、今まで主に使用されてきた素材です。
ある歯科技工所では、今まで、通常に使用していて義歯が割れたことは1回もないと言っていました。
100%割れないとは言えませんが、それほど割れにくいのでしょう。
“たわみ”があるため、『アンダーカット』に左右されにくい。
“たわみ”があるため、適応範囲が広い。

欠点

柔らかい特殊な樹脂を使用しているため、修理が非常に困難です。
例えば、義歯を作製後には、ある程度期間が経つと、歯肉は必ず痩せて来ます。
歯肉が痩せた場合には、通常、『裏打ち(リライニング、リベース)』という処置を行います。
しかし、この『スーパーポリアミド樹脂製』は『裏打ち(リライニング、リベース)』が医院内では基本的にできません。
そのため、歯肉が痩せた場合には、基本的に義歯を再製する必要性があります。
破損した場合にもその場での修理がしにくい。

2. 『ポリカーボネイト樹脂製』

利点

『裏打ち(リライニング、リベース)』が可能です。
また、修理も可能です。
通常の保険の義歯(アクリルレジン)と比較すると硬さが約2倍、衝撃に対する強さが約8倍あります。

欠点

先程のスーパーポリアミド樹脂製よりは、硬い材質です。
そのため、義歯の厚みが必要になります。
また、“たわみ”が少ないため、スーパーポリアミド樹脂製よりは、適応範囲が狭い。

どちらの素材が優れているということは言えませんが、壊れたり、歯肉が痩せた場合に 新しく作成することを前提であれば、柔らかい素材の『スーパーポリアミド樹脂製』の方が良いかもしれません。
修理等を重視する場合には、『ポリカーボネイト樹脂製』が優れている材料です。

※ 使用材質による問題点等は、後に詳細を記載してあります。
※ スーパーポリアミド樹脂製は、修理ができないということではありませが、非常に困難です。

3. ノン・クラスプ・デンチャー商品名

次は、ノン クラスプ デンチャーの具合的な商品名についてです。
なぜ、商品名を知る必要性があるのか?ということですが、実はこの商品名を知ることは非常に大切なことなのです。
その理由は、最後まで読むと分かります。
以下は、現在(2008年)日本で使用されている代表的なノン・クラスプ・デンチャーです。

1. ヴァルプラスト
  • スーパーポリアミド樹脂製
  • アメリカでは、50年の歴史がある。 FDA(食品医薬局)承認。
  • 非常に柔らかいが、傷がつきやすい
  • 基本的に病院内での修理ができない
  • 2007年時点では、認可を受けていなかったが、2008年に認可となった。
  • 日本で出回っている『ヴァルプラスト』のほとんどは中国製(2007年 度段階)
  • 当院で扱っている『ヴァルプラスト』は、国内作製です。
2. フレキサイト義歯(ルシトーンFRS)
  • スーパーポリアミド樹脂製
  • デンツプライ社の製品で20年以上の臨床実績がある
  • 基本的に病院内での修理ができない
  • 日本では、認可を受けていない(2007年度段階の情報になります)
3. スマイルデンチャー
  • スーパーポリアミド樹脂製
  • 非常に柔らかいが、傷がつきやすい
  • 基本的に病院内での修理ができない
  • 日本では、認可を受けていない。
    そのため、日本での製造はできない。(2007年度段階の情報になります)
4. ジェットカーボ義歯
  • ポリカーボネイト樹脂製
  • スーパーポリアミド樹脂よりは硬い
  • 修理が可能
  • 日本国内認可あり
5. ナイスデンチャー(レイニング樹脂)
  • ポリカーボネイト樹脂製
  • スーパーポリアミド樹脂よりは硬い
  • 修理が可能
  • 日本国内認可あり
6. ピタットデンチャー(レイニング樹脂)
  • ポリカーボネイト樹脂製
  • スーパーポリアミド樹脂よりは硬い
  • 修理が可能
  • 日本国内認可あり
  • 当医院で使用している義歯です

※ 私個人の考えとしては、日本国内で認可を受けていない材料を使用しての義歯の作製には、問題があると思います。
その理由として、患者様に使用材料等のきちんとした説明とご理解が必要なこと。
国内認可がない義歯のほとんどは、中国製のため、作製日数に時間がかかり、基本的に院内での修理ができないことがあり、ダメになったら義歯の新規作成が必要であり、結果的にランニングコストがかかります。
こうした点から きちんと国内認可があり、修理もできるノン・クラスプ・デンチャーが安心して使用できると考えています。

海外義歯の危険性について非常に興味のある記事を見つけました!
このテーマの最後に記載されていますので、是非御覧になって下さい。

警告!

近年、『ノン・クラスプ・デンチャー』は、部分義歯の金具がないという理由から患者様にとって好評となっています。
しかし、全てのケースに適応されるものではありません。
きちんとした適応症を守らないと見た目だけの義歯になってしまい、噛むことに問題を起こす結果となってしまいます。
また、将来性を十分考慮していかなないと修理ができない場合には、患者様の生活に支障を及ぼすことになってしまいます。

以下は、2008/03/14にYAHOO JAPANニュースに出ていた記事です!

中国製の食品や玩具から毒性が検出されて内外で問題となる中、米国歯科技工所協会(NADL)が中国で製作された義歯修復物から「危険なレベルの鉛が発見された」と報告している。
日本の歯科医療でも安価を売り物にした中国など海外の技工物が広がる状況にあり、歯科医に緊急アンケートを行った青森県保険医協会歯科部は「海外技工物に関しては、法律上の制約も行政上のチェックもないままに行われており、安全性の面から大きな問題がある」と警告している。
同協会などによると、中国製の義歯修復物に関しては、米国オハイオ州の患者からNADLに連絡があり、修復物を専門機関で分析したところ「危険なレベルの鉛が材料に使用されている」ことが分かった。
米国議会が中国製玩具の回収の目安とした90ppmを上回る210ppmの検出もあったという。
さらに、ボストン大学歯学部が追加調査した結果、鉛に加えて「放射性アイソトープ・トレース」が含まれていることも明らかになった。
米国歯科医師会(ADA)は「非常に深刻な事態」としている。

※ 参考資料
総義歯の方には、シリコンを利用した総義歯があります。
通常の義歯よりはるかに痛み等がなく、快適な総義歯です。 コンフォート義歯