インプラント治療

インプラント治療(応用編)

傾斜埋入

インプラントの傾斜埋入とは何か?というお話の前にインプラントの傾斜手術を行うにいたる理由をお話したいと思います。

歯周病患者におけるインプラント埋入の困難性

重度歯周病の場合、歯槽骨の吸収が進んだ状態で抜歯されることが多く、その後のインプラント埋入に支障をきたすことが多く認められます。
特に上顎臼歯部においては上顎洞(上顎洞については後で詳細を図解します)の存在があり、インプラント埋入を困難にしています。
また抜歯後、欠損部を長期的にそのままにしていると顎の骨は機能圧が加わらないため吸収(骨が痩せてくる)してしまいます。(抜歯後の骨の吸収についてはインプラントの基礎知識の『歯がないと顎の骨はどんどんと吸収していきます!』を参考にしてください)
つまり骨の高さや幅が少ないもしくはほとんど存在しない部位ではインプラントを埋入することは困難になるということです。
もし骨幅や骨の高さがない場合、そのままの状態でインプラントを行うと失敗してしまいます。
しかし、実際には上顎においてはインプラントを行うための骨が不足していることの方が多く、60~70%の方は骨の増大や特殊な治療法を行わないでのインプランとは不可能です。
それではまず上顎洞について解説します。

上顎洞とは?

上顎の奥歯の上に存在する骨の空洞になっている部分のことです。この空洞は頬骨の奥に存在し、鼻腔へとつながっていて、鼻柱骨により左右に分かれています。この上顎洞の働きは完全にはわかっていません。
多くの場合、歯が存在するとこの上顎洞と上顎の骨の距離は一定の幅がありますが、歯周病等で骨が吸収してしまうと抜歯後上顎骨と上顎洞との距離が薄くなってしまいます。
その結果インプラントを行えないことがあります。

上顎洞についての解説

A.
歯がある状態で上顎洞までの距離があり、十分な骨の高さがある。
距離があり、十分な骨の高さがある場合
B.
歯を失った後でも上顎洞までの距離があり、十分な骨の高さがある。インプラントを行うのに問題はない。
歯を失った後でも、距離があり十分な骨の高さがある場合
C.
歯周病等で骨が吸収してしまったために上顎洞までの距離がなくなり、インプラントを行うのに十分な骨の高さがない。
上顎にインプラントを希望する患者さんの多くは(60%以上)このような状態である。
このように歯を抜いた場所は年々やせて、場合によっては1~2mm程度の幅しかない方もいます。
距離がなくなり骨の高さがない場合

"C"のような上顎洞が下がってきていてインプラントを埋入するための骨の高さがない場合に『ソケットリフト法』や『サイナスリフト法』という方法を行います。 この2つの治療法についての詳細は専門知識の『特殊な治療』に症例写真を添付して解説してあります。 それでは以下に2つの方法について簡単に図解します。

ソケットリフト法

上顎と上顎洞との距離が狭く、そのままではインプラントは不可能であるが、5mm以上の距離がある場合に行う方法です。
通常インプラントを行うのには最低10mm(予知性のある治療を行うのに必要な最低限の骨量と考えている)の骨の高さが必要であるが、ソケットリフト法を応用すれば5mm以上の骨の高さがあればインプラントを行うことができます。

ソケットリフト法 ソケットリフト法手順

サイナスリフト法

上顎と上顎洞との距離が狭く、そのままではインプラントは不可能な場合で、ソケットリフト法では対応できない骨の高さが4mm以下の場合に行う方法です。
一般的にサイナスリフト法と同時にインプラントの埋入は行わないため、サイナスリフト後に骨の増大と安定が完了するまで4~6ケ月程度の期間を待たなければなりません。しかし、上顎の骨の高さが4mm以下の場合にはこの方法以外にインプラントを行うことは不可能です。
治療期間はかかりますが、確実な方法と言えます。

サイナスリフト法

骨の高さが4mm以下の場合、ソケットリフト法でも対応できないため、サイナスリフト法を行います。
ソケットリフト法とことなり、下から骨を押し上げるのではなく、骨の高さのない横から移植材を入れ、骨の高さを増大します。

骨移植

骨移植※を行うことにより、上顎洞は点線の位置から押し上げられインプラントを行うのに十分な高さを得ることができる。
その後4~6ケ月程度骨が安定するのを待ちます。

インプラント埋入

サイナスリフトより4~6ケ月後インプラントを埋入します。

※骨移植とは?

サイナスリフトを行う場合に骨の高さを増大するためにご自身の骨を他部位から採取し、上顎洞を押し上げる材料として使用する方法です。
骨移植と聞くと恐い感じがするかもしれませんが、局所麻酔で行うことができますし、最も成功率が高い方法であることがわかっています。また狂牛病やヤコブ病の原因とされている他動物の移植材(骨)を使用しないため安全性が高い方法です。
当医院ではこれにPRP(最新医療のページ参照)を複合して使用しています。
このPRP法は現在非常に注目されている骨を増大を促進させる方法です。

このように上顎洞が下がってくるとソケットリフト法やサイナスリフト法を行わないとインプランとはできません。
残存骨の高さが5mm以上あればソケットリフト法は行えます。ソケットリフト法は患者さんにとっても術者にとっても楽で安全な治療法であり、第一の選択肢となります。
しかし、残存骨の高さが4mm以下(ケースにより4mm以下でもソケットリフト法で対応できる場合もあります)ですとサイナスリフト法を行う必要性がでてきます。サイナスリフト法はかなり困難を極める治療法であり、治療期間も通常のインプラントと比較すると6ヶ月程度長くなりますし、治療費もかかります。
そのため残存骨の高さが少ない場合でもそうした治療法をせず行う方法が『インプラントの傾斜埋入』です。
それでは傾斜埋入とはどのような方法であるのかをシミュレーションの症例を見ながら解説していきます

傾斜埋入

下のレントゲンですが、左上奥歯にインプラントを埋入する計画を立てました。の部分を拡大したのが右のレントゲンです。青色の点線が上顎洞の下部の位置で緑の点線が骨の外形です。骨の中央部に凹部(骨の吸収)があるのが認められます。

傾斜埋入

ではこのような症例に対してどのような治療計画が考えられるのでしょうか?

<治療計画書1>

骨の吸収している凹部に骨を増大(GBR法)させ、骨ができるまで3~4ヶ月程度待ちインプラントを両端に2本埋入し、ブリッジとする。
治療期間は7ヶ月程度と一番時間がかかり、2回の手術が必要となる。
グレーの網掛けの部分が骨を増大(GBR法)させる部分です。(骨の平坦化が行える)
ベストな治療のひとつである。

GBR法
<治療計画書2>

骨の吸収している凹部はそのままにし、手前に2本インプラントを埋入し、カンチレバー(『カンチレバー』の項参照)とする。
しかし、1本は短いインプラントしか埋入できないため、予後に不安が残る。

カンチレバー
<治療計画書3>

骨の吸収している凹部はそのままにし、両端にインプラントを埋入する。症例2のように短いインプラントではなく、ソケットリフト法を行い、長いインプラントを埋入する。写真の白い部分がソケットリフト法で上顎洞が押し上げられた部分です。 このようなケースでは一般的に行われる治療法です。

ソケットリフト法で上顎洞が押し上げられた写真
<治療計画書4>

最も奥のほうに骨の高さが充分あるので、その部分に極力長いインプラントを埋入し、ブリッジとする。
長いインプランとが埋入できることが特徴です。しかし、奥までブラッシングを充分にできないという問題が起こります。

長いインプラント埋入写真
<治療計画書5>

サイナスリフトを行い、極力長いインプラントを埋入する。グレーの網掛け部分がサイナスリフトにより骨化(骨の増大が得られた)した部分です。
長いインプラントが埋入できるため安定性は非常に良い。
しかし、手術の大変さは最も大きく、患者さんの負担が大きい。
また治療期間が1年近くかかるのが欠点です。

サイナスリフトにより骨化(骨の増大が得られた)した写真

このように骨の吸収がある場合にさまざまな治療法が考えられます。『インプラントの傾斜埋入』とはそうした場合のひとつの治療法です。 特に骨の吸収があり、上顎洞が下がってしまっている場合にはサイナスリフトを行わずインプラントが埋入できる有効な治療法です。 私自身もインプラントを埋入する骨の高さがない場合にはよく使用する方法です。 患者さんの負担も少なく良い方法であると考えています。 それでは実際に『インプラントの傾斜埋入』の症例を見ていただきます。

症例1

下のレントゲン写真が治療前の状態です。右上に2歯の欠損がありますが、中央部に骨の吸収している凹部が認められます。右のレントゲンが拡大した状態です。

治療前のレントゲン写真

中央部に骨の吸収した凹部があるため両端に斜めにインプラントを埋入する計画を立てました。
インプラントはシミュレーションです。

シミュレーション写真

下のレントゲン写真が治療後の状態です。

治療後のレントゲン写真

症例2

下のレントゲン写真が治療前の状態です。
赤色の点線が上顎洞の位置で緑色の点線が骨の外形です。
中央部には骨の高さがほとんどないことがわかります。
治療方法としてサイナスリフトはせず、奥にインプラントを傾斜埋入させて行うことにしました。

治療前のレントゲン写真

下のレントゲン写真が治療後の状態です。

治療後のレントゲン写真

症例3

下のレントゲン写真が治療前の状態です。
赤色の点線が上顎洞の位置で緑色の点線が骨の外形です。
中央部には骨の高さがほとんどないことがわかります。
治療方法としてサイナスリフトはせず、奥にインプラントを傾斜埋入させて行うことにしました。
同部分を拡大(抜歯前になります)したのが右側の写真です。抜歯前の状態を見ると骨が根の先までないのがわかります。

治療前のレントゲン写真

下のレントゲン写真が治療後の状態です。
このようにインプラントの傾斜埋入を行うと、サイナスリフトや骨の移植手術を行わないで治療を行えます。
しかし、インプラントを斜めに埋入する部位が存在しなければもちろん行えません。
左のレントゲン写真が全体像で右のレントゲン写真がインプラント部分のみの拡大像です。

治療後のレントゲン写真

それではこうした『インプラントの傾斜埋入』という治療法は問題が起こらないかどうかという疑問が生じます。
以下は傾斜埋入をした後の予後調査についての論文です。
難しいことは省いて簡単に説明します。

研究者 Celletti R, et al
発表(掲載)論文 Int J Peeriodontics Restorative Dent. 1995
論文タイトル 『上下臼歯部への傾斜埋入予後の調査』
対象患者 22人(30のインプラント)
観察期間 平均40ヶ月(35~54ヶ月)
結果考察 意図的な傾斜埋入を行っても連結固定を行え不利なことはないばかりか、かえって力学的に有利である場合がある。

グラフ

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