上顎臼歯部に十分な骨の高さがないために、特殊な治療を行う場合のレントゲン診査:2

はじめに

上顎臼歯部にインプラントを行う際に、骨の高さが十分ないケースは症例3のようにソケットリフト法や親知らずが存在する場所(臼後結節部)に埋入することが第一に考えられますが、こうした方法もできないくらい骨がない場合もあります。
そのような場合はサイナスリフト法(上顎洞挙上術)と言われる方法をとります。
このサイナスリフト法を行う場合は通常のレントゲン診査以外にCTレントゲン撮影を行うことがあります。それはオルソパントモグラフィーレントゲン撮影では確実な診査が行えないからです。
この項目の最初で説明したようにインプラント治療が成功するかどうかはいかに適確に診査が行えるかということにかかってきます。適確な診査なしではインプラントの長期安定(成功)は望めません。
それではまず、症例報告の前にCTレントゲン撮影についてご説明します。

CTレントゲン撮影とは

CTとはComputed Tomographyの略です。
通常歯科で使用されているレントゲン(デンタルレントゲン、オルソパントモグラフィー等)が2次元撮影(平面撮影)であるのに対して、CTは3次元(立体的)で撮影が可能なため複雑な形態をしている部分に対して非常に有効な情報が得られる。
しかし、医科領域で使用されているCTは

  • 器材自体が大きく、設置費用が高額であるため、撮影自体の費用も高い
  • 撮影時間がかかる
  • 被爆線量が他の撮影に比較にして大きい

等の問題が指摘されてきた。
そこで、歯科に適したCTの開発が1992年より開始され、2000年12月に歯科用CT小型X線CT(3DX)として厚生省から薬餌承認を受け、2001年1月より臨床が開始されることとなりました。
それでは次はその3DXについて説明します。

歯科用小型X線CT(3DX)について

下記の写真が3DXです。特徴として以下のことがあげられます。

  • 1回の撮影で、高精度の3次元画像が得られる
  • 3次元画像は、3DXソフトにより、任意の3方向断面の観察ができる。
  • 3次元画像は、3DXソフトにより、任意の3方向断面の観察 ができる。
  • インプラント、根尖病巣、顎関 節、埋伏歯などの診断等適応範囲が広い。

3DX MULTI-IMAGEMICRO CT:モリタ製作所

歯科用小型X線CT(3DX)の被爆線量

歯科用小型X線CT(3DX)の最大の利点は被爆線量が医科用CTと比較して非常に小さいことです。
それでは3DXを行うにあたり、レントゲンによる被爆はどの程度あるのでしょうか?
3DX 1回あたりの被爆線量は6~15μSv(シーベルト)です。これは通常、歯科で使用している小さなレントゲン(D感度フィルムデンタルレントゲン)2枚程度です。
医科用X線CTと比較すると1/100~1/30程度になり、歯科用小型X線CT(3DX)の安全性は実証されています。(医科用X線CTにおいても十分に安全性は確保されており、危険性はほぼ無視できる程度とされています)
それでは3DXを使用したレントゲン診査を実際の症例をもとに説明します。

症例4:サイナスリフトを行うための3DXによるレントゲン診査

写真1は初診時のレントゲンで、写真2はインプラントを埋入するために必要な位置を表した写真です。白い線はインプラントが埋入できる骨の高さを表しています。奥歯ではインプラントを埋入するための高さが存在しないのがわかるかと思います。そこでサイナスリフト法を行う治療計画をたてました。

症例4:外科用ステントにおけるレントゲン診査

症例1、2、3と同様に診断用ワックスアップから外科用ステントを作製し、口腔内に装着し、レントゲン写真(オルソパントモグラフィー)を行ったところです。
オルソパントモグラフィーは約10~30%程度拡大されて撮影されるため金属製のピン(今回は12mmの長さを使用)の拡大率をレントゲン上から計測し、実際の骨の高さを計算します。
このレントゲンからはインプラントを埋入するのには非常に厳しい状況がわかりました。しかし、患者さんのインプラントへの強い希望があったため、先程説明したようにサイナスリフト法を行うことにしました。
次は3DXによるレントゲン診査です。

症例4:3DXにおけるレントゲン診査

以下は症例4の患者さんの左上臼歯部の3DXレントゲン像です。
レントゲンの見方は非常に難しくわかりづらいので、簡単に説明します。
左側は歯を横(歯列を平行に切断した面)から見た状態です。通常のレントゲンで見られるような像です。“歯列平行断像”と言います。
右側は歯を縦(1つの歯を縦に輪切りにした状態)から見た面です。通常のレントゲンでは見られず、CT特有のレントゲン像が得られます。これを“歯列横断像”と言います。
これらはコンピューター上から得られるレントゲン像であるため、直接正確な骨の高さや厚みが自動に計測され、非常に正確な情報が得られます。このレントゲンからは骨の高さ(黄色の部分)や幅(白色の部分)が非常に狭く、通常ではインプラントができないことがわかります。
【通常、高さが10mm、幅が6mmはないと良い状態ではありません】

以下は症例4の患者さんの右上臼歯部の3DXレントゲン像です。
コンピューター上から骨の高さ(黄色の部分)や幅(白色の部分)を計測した結果、部位によってはインプラント埋入可能なことがわかりました。
正確な距離はコンピューター上から計測されます。

症例4:治療終了後の状態

十分なな診査を行うことにより上顎右側はインプラントを行うことができました。
また左側は部分矯正により歯牙の傾斜は改善されました。