歯周ポケット内部への抗菌剤の使用(化学的殺菌療法)

歯周病は、歯周病ポケット内部に汚れ(歯周病細菌)が侵入することにより起る感染症です。
そのため、歯周病の治療の大きな目的は、歯周病ポケット内部の細菌感染を取り除くことになります。
歯周病ポケット内部の感染(汚れ)を取り除く治療を『ルートプレーニング』と言います。
この治療は、歯肉に麻酔を行い、歯肉内部にある汚れ(歯周病細菌)を『耳かき』をするようにかき取る治療です。
しかし、歯肉に強い炎症がある場合には、行えません。
そこで、歯肉の炎症を取り除くために、歯周ポケット内部に抗性物質を直接注入し、除菌を行う方法です。
このような方法を 『局所薬物配送療法』といいます。
(Local)drug delivery system の頭文字をとって、LDDS または DDSとも呼ばれます。
現在、歯科領域では、『ペリオクリン®』という薬が主に使用されています。
成分は 2%塩酸ミノサイクリンという『抗性物質』です。 通常の口から服用する抗性物質は、腸から吸収され、血管へと入り、歯周ポケットヘ届きます。
そのため 経路が長いために一定量の抗性物質を服用しないと効果はありませんが、直接ポケット内部へ入れるDDS法は、少量で済み、副作用 や 腸内細菌への影響などがない点が利点といえます。

また、この『ペリオクリン®』はポケット内部でゆっくりと放出できるように(長時間効果が発揮できるように)持続性のコーティング加工がされています。
しかし、この『ペリオクリン®』も単に歯周ポケットに注入するだけでは 効果は少ないのです。
それは『バイオフィルム』が存在するためです。
ここで、『バイオフィルム』について解説します。
例えば、台所や風呂場の清掃を少ししないでいるとそこは、ヌルヌルとしてきます。
その ヌルヌル を除去しようと思っても、塩素系の薬剤等を使用しない限り、ブラシのみではなかなか取除くことは困難であると思います。
この除去しづらい ヌルヌル が『バイオフィルム』です。
歯の表面 や 歯周ポケット内部にも同様の『バイオフィルム』が形成されます。
『バイオフィルム』の内部には複数の細菌が生息しています。
『バイオフィルム』という家の中で 複数の細菌が共同生活をしていると思って下さい。
問題なの『バイオフィルム』は薬剤や殺菌剤などの外敵から身を守るためにバリアとして働いていることです。
『バイオフィルム』を除去するためには、機械的に擦りとらなければなりません。
『バイオフィルム』という汚れの上から いくら薬をかけても 汚れの内部(バイオフィルムの中)には抗生物質は浸透していかないのです。
『バイオフィルム』の除去後に服用してはじめて効果が発揮されます。

歯周ポケット内部に抗生剤を入れる『DDS(LDDS)法』は、簡単で非常に良い方法のように思われますが、実際には局所薬物配送療法(LDDSまたはDDS)のみでは『ルートプレーニング』に代わる効果は得られません。
『DDS(LDDS)法』の基本的な考え方としては、一時的に歯周ポケット内の細菌を減少させたり、歯肉の炎症を和らげることはできますが、細菌の出した毒素や歯石を取り除くことは不可能です。
あくまでも歯周病の補助的治療になります。
当医院でも炎症がある場合には、炎症消退の目的で『ペリオクリン®』を使用した『DDS(LDDS)法』を行います。
炎症が消退することにより次の治療が行いやすくなります。