歯周病治療の新しい考え方:フルマウス スケーリング・ルートプレーニング

はじめに

この項目をご覧になる前に歯周病の一般的な治療法『ルートプレーニング』について解説します。
歯周病の原因は、『歯』と『歯肉の境目』に付着した汚れ(食べかす)がその境目の内部に侵入することから始まります。
この『歯』と『歯肉の境目』のことを専門用語で『歯周ポケット』と言います。
『歯周病ポケット』の内部に侵入した汚れは、歯の根の中にべったりとへばりつきます。
この汚れのことを『歯石』と言います。
聞いたことがありますよね。

歯石の除去は歯科医院で経験されたことがある方も多いかと思います。
しかし、そうした場合に行う『歯石の除去』とは、歯肉の上に見える部分を取り除いているだけで、『歯周ポケット』の内部に侵入した『歯石の除去』とは違うのです。
『歯周ポケットの内部に侵入した歯石の除去』は、歯肉に麻酔をして行うことが必要です。
この『歯周ポケットの内部に侵入した歯石の除去』を専門用語で『ルートプレーニング』と言います。
または、『SRP(scaling root planing:スケーリング・ルートプレーニング)』とも言います。

『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』は、1回の治療で1歯ずつ行うのではなく、4~7歯程度を一度に行います。
この時の治療時間は約30~60分になります。
口腔内全体が歯周病の場合、全ての歯の『SRP』が終了するのに約4~6回の治療回数がかかります。(上下顎合計で28歯全て存在する場合です) 患者様自身も1回に口を開けていられる限界時間は1時間程度ですので、約4~6回の治療回数に分けて行うことは一般的です。
これが、通常の『SRP』の進め方 と覚えておいて下さい。
この通常の『SRP』のことを『コンベンショナルSRP』とも言います。
『コンベンショナル』とは『ふつうの、古くからある、ありきたりの』という意味です。

今までの『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』の欠点

歯周病は、細菌感染(歯周病細菌)によって起る疾患です。
先程説明しました汚れ(食べかす)が『歯周ポケット』内部へと侵入することです。
その治療として先程『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』について説明しました。

そして治療の進め方として1回の治療で4~7歯程度を行うため、口腔内全体が歯周病の場合には治療回数は4~6回になります。
通常、『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』は、1週間に1~2回程度行うペースが最適です。
もし、これが、1ヶ月に1回というようなペースで行った場合には、問題が生じる可能性があります。
つまり、『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』によって歯肉の内部がきれいになった(除菌)されたとしても、他の部位がまだ汚れていれば、『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』した部位にも再度新たな感染が生じてしまう可能性があります。
ある程度短期間で行う必要性があることが『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』にとって重要なのです。
これが欠点でもあります。

歯周病治療の新しい考え方:フルマウスSRP法

そこで、1日で全ての歯周病に感染した歯に対して『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』を行えば、新たな感染を生じないという考え方がこのテーマである『フルマウスSRP法』です。
また、『Full Mouth Disinfection』とも言います。
『フルマウス(Full Mouth)』とは『口腔内全体』という意味で、『Disinfection』とは『殺菌』という意味です。
口腔内全体を殺菌しましょうということです。
理論的には優れた治療法です。

しかし、現実的な問題点として治療時間があります。
先程書きましたように7歯程度の『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』で約30~60分の治療時間がかかるわけですから、口腔内全ての歯を行うとすると 120~240分かかることになります。
こんなに長時間は口を開けていられませんよね!
ただし、考え方としては優れた方法だと思います。
そのため、60分程度で全体的に『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』が行えるような場合にはこうした方法を行います。
また、インプラントが既に埋入してある患者様で、歯周病が再発して場合には感染防止のため、歯周病に感染している歯は一度に全て行うことにしています。

フルマウスSRP法をさらに効果的に行うために

『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』をさらに効果的に行う方法として

  1. 1. 『局所的薬物送達療法:LDDS(Local drug delivery system)』
  2. 2. 『抗菌性グルコン酸クロルヘキシジン含嗽剤の使用』
  3. 3. 『経口的抗菌薬の投与』

が考えられます。
順番に説明します。

『局所的薬物送達療法:LDDS(Local drug delivery system)』とは、歯肉の内部(歯周ポケット)に抗菌作用のある薬を直接注入し、歯周ポケット内部の細菌を直接除菌するという方法です。
日本の歯科界では、『塩酸ミノサイクリン』という薬が良く使用されています。
『塩酸ミノサイクリン』は、テトラサイクリン系の抗生物質で、細菌の発育を抑制する作用があります。
歯周ポケット内部に薬を入れるだけの治療です。
痛みもありません。
しかし、『局所的薬物送達療法:LDDS』は、歯周病ポケット内部の細菌の数を減らすことはできても、それ自体が歯根表面に付着した『歯石』そのものを取り除くことはできません。

次に『抗菌性グルコン酸クロルヘキシジン含嗽剤の使用』です。
『グルコン酸クロルヘキシジン』という含嗽剤は歯周病細菌に対して効果が高いものです。
『抗菌性があるクロルヘキシジン』を治療中に使用していただくことにより口腔内の歯周病細菌の繁殖を防ぎます。

さらに『経口的抗菌薬の投与』です。
歯周病細菌に効果がある『抗生剤』をある程度の期間(2~4週間程度)服用していただきます。
抗生剤の効果により、歯周病細菌を少なくするのです。
この詳細は、参考リンク「飲み薬で歯周病を治す!」をご覧下さい。

このシリーズのまとめとして
『局所的薬物送達療法:LDDS(Local drug delivery system)』と『抗菌性グルコン酸クロルヘキシジン含嗽剤の使用』、『経口的抗菌薬の投与』を併用することにより『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』の効果は高まるのです。
しかし、歯周病治療の基本であるブラッシングがきちんとできていなければ、こうしたことは意味がなくなってしまいます。

まず、ブラッシングがきちんとできていることが第一であり、上記の3つはあくまでも補助的なことと思って下さい。 歯ブラシで汚れ(細菌)が取り除けない状態でいくら『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』、『局所的薬物送達療法:LDDS(Local drug delivery system)』、『抗菌性グルコン酸クロルヘキシジン含嗽剤の使用』、『経口的抗菌薬の投与』を行っても効果はありません。
歯ブラシはきちんと行っているつもりでも100%行える方はいらっしゃいません。
もちろん100%ということは難しいことですが、一度歯周病になってしまったということは、歯ブラシの方法や時間等に問題があったということです。

同じような状態いれば、当然、歯周病は再発します。
歯周病でない方の『2倍の時間をかけ』丁寧に行うことが大切です。
毎食後のブラッシングが再発するかしないかの大きなポイントになります。

よく患者様に以下のようなたとえ話をすることがあります。
糖尿病や高血圧の患者様に対して、生活習慣の改善をせず、薬だけを処方しても治りません。
いくら薬を服用しても、食事も普通の人と変わらず、十分な運動もせず、ましてや喫煙されていれば、治るはずもありません。
また睡眠やストレスもそうです。
これは歯周病にも言えることです。
特に喫煙されている方は歯周病は治らないと思って下さい。

『SRP:スケーリング・ルートプレーニング』、『局所的薬物送達療法:LDDS(Local drug delivery system)』、『抗菌性グルコン酸クロルヘキシジン含嗽剤の使用』、『経口的抗菌薬の投与』はあくまでもきちんとした生活スタイルが確立できてこそ効果のある治療となります。