失敗症例:歯周病による骨吸収

失敗症例:歯周病による骨吸収

インプラントを行った後に問題が起ることがあります。
いわゆるインプラントが失敗したケースです。
ここでは他歯科医院にてインプラントを行ったが、1年後ダメになったケースを見ながら、どこに問題があったのか?どのように治療すればよかったのか?等を解説していきたいと思います。
下の口腔内(写真1)は初診時の状態です。下顎の矢印(↓)の部分の歯が自然に抜け落ちたとのことで紹介で当医院に来院されました。

写真1

下のレントゲン(写真2)は当医院に来院した初診時の状態です。写真3はインプラント部分のみのレントゲンです。右下の2本のインプラントのうち手前のインプラントには骨の吸収が認められます。写真3で元々あった骨の位置を赤線、骨が吸収してしまった現在の位置を緑線で示します。骨が吸収してしまったのがわかるかと思います。
それでは何故このように1年たらずでインプラント周囲に骨の吸収が起ってしまったのでしょう? 答えはその手前の天然歯が歯周病であったにもかかわらず、歯周病の治療をしない状態でインプラントを行ったために、天然歯がだめになっただけではなく、インプラントにも歯周病細菌が感染したのです。

写真2 写真3

これほどまでにインプラント周囲に感染と骨吸収が起るとインプラントを摘出しなければなりません。
診査の結果、同部分だけではなく、全体的に歯周病が進行していることがわかりました。下のレントゲン写真4において赤丸印(●)が抜歯をしなければならないと診断された歯です。

写真4

歯周病の治療だけではなく、左右の欠損部位にはなにも治療がさわておらず、噛み合せにも問題がありました。つまり口腔内全体の治療計画がなにもさわていないまま単に歯のない部分にインプラントを行っただけの治療でした。
近年、インプラント治療は急速に普及しています。長期的な報告も数多くされており、高い成功率となっています。(『インプラントの成功率』を参照)しかし、その反面、失敗症例も多く報告されるようになってきています。特にインプラントと天然歯が共存する中で高い成功率を達成するためには単にインプラントを埋入するだけでなく包括的(全体的な)治療計画が必要となってきます。残存歯の予知性(将来性)、被せ物との兼ね合い、噛み合せの状態、患者さんの希望などさまざまな面からの検討が必要になってきます。その中でも歯周病に罹患(りかん)した状態でのインプラント治療は困難を極めます。インプラントを行う場合にばまず歯周病の検査を行い、口腔内から歯周病細菌を除去してからインプラントを行わないと細菌はインプラントに感染します。またそれ以外の噛み合わせ等の治療も重要です。

最終的な治療計画は写真5のようになりました。
インプラントを含め赤丸印(●)を抜歯し、歯周病の治療後、噛み合せを考え他の奥歯にもインプラントを埋入する計画をたてました。
右下の摘出したインプラントの手前に1本のインプラントを埋入し、以前埋入したインプラントとブリッジという方法をとりました。このことにより以前に埋入したインプラントを活用できます。

上顎はインプラントを埋入するための骨の高ぎがまったくなかったためサイナスリフトという治療を行います。(『特殊な治療』を参照)
歯周病の治療、噛み合せ、将来的な予知性等総合的な治療計画がたちました。

写真5

下記の写真6は現在の口腔内の状態で、写真7は現在のレントゲン写真です。
今度は右上の奥歯の治療になります。
そして最も大切なのはこの状態をいかに維持するかということです。
生涯にわたり維持するためには、定期的なメインテナンス(定期検査)が必要になってきます。(『メインテナンス』の項参照)
メインテナンスでは口腔内の清掃状態(ブラッシングの管理)を指導し、クリーニングを行います。また虫歯のチェックを行います。それ以外としては噛み合せのチェックも行います。これはお口の中には様々な材質が存在します。
天然歯、人工の被せ物(金属性のもの、セラミック、ハイブリッドセラミック等)全ての被せ物は硬さが違います。硬さが違うということはすり減り方も違います。右側で良く噛む人、左側で良く噛む人、様々です。歯ぎしりや食いしばりが強い方もいます。そうした状態で10年、20年と時間がたつと噛み合せも変化してきます。定期的に噛み合わせの状態も確認していかないと問題は起ります。
このようなことをメインテナンスで行うことにより、口腔内は維持できるのです。

写真6