7. 全身疾患と口臭Q&A

全身疾患についてよくある質問をまとめてみました。

Q:胃が悪いと口臭があるの?

A:口臭を自覚されている患者様の中には、 「胃から臭いが生じているのではないか?」 と考えられている方がいらっしゃいます。
実際に 胃から臭いが生じることはあるのでしょうか?

始めに 食後の胃の中に存在する内容物自体(食物自体)が口臭の原因となることはないということを理解して下さい。
(ただし、病的な状態により臭いが発生することはあります。
全身疾患と口臭については、下記ををご覧になって下さい。 Q:病気による口臭はあるのか?(胃がん や 糖尿病…等)

これは、人間の解剖学的な構造上 呼吸というルート(口から肺のルート) と 食べるというルート(口から胃のルート)は 分離されています。
呼吸によって生じる口臭のルートは、 気管からのルートであり、 この時には胃からのルートは閉鎖されています。
会話による口臭は「口から肺のルート」によるので、 「口から胃のルート」の臭いは起こりません。

それでは、食べ物自体の臭いはどのように起こるのでしょうか?
例えば「ニンニク」を食べた後の臭いはどのように起こるのでしょうか?
食後の口腔内の 粘膜 や 舌の上 に残った「ニンニク」からは、 当然のことながら臭いはあります。
当たり前ですが…
こうした食後の臭いの対処法については下記をご覧になって下さい。 Q:食後に重要な「お口直し」とは?口臭治療の必須ポイント

これで口腔内の 粘膜 や 舌の上 に残った「ニンニク」の臭いは格段に減少します。
しかし、問題なのは粘膜 や 舌の上 に残った臭いではありません。
「ニンニク」に含まれる臭い成分が 血液に取り込まれ 肺でガス交換されて呼気として出てきます。
さらに、血液から唾液に溶けこむことによっても発生します。

また 口臭とは違いますが、 食物の臭いは 汗 や おしっこ にも混ざります。
つまり、胃から直接食物の臭いが起こっているのではないのです。
ちなみに 食後1時間程度で胃の中の食物は腸に移動するため、 すぐに胃の中は空っぽになります。
「ニンニク」などを食べると次の日でも臭うのは、 胃の中からの「ニンニク臭」ではなく、 肺からの呼気 等によるものなのです。
お酒を多量に飲んだ次の朝に「酒臭い」と感じるのは、上記で解説した「ニンニク」と同じです。
ただし、例外として「ゲップ」による臭いは考えられます。
これは、胃の蠕動運動(ぜんどううんどう)に伴い「ゲップ」という形でガスが胃から発生したのです。
蠕動運動(ぜんどううんどう)とは、消化管などの臓器の収縮運動のことで、食物 等を移動させることです。
蠕動運動(ぜんどううんどう)は自律神経の働きによって行われているため、意識的に調整することはできませんが、 食物や水分をとったり、運動をする 等の行為によって活発になります。

また、お腹が「グルグル」と鳴るのは蠕動運動(ぜんどううんどう)のためです。
若い方は、蠕動運動(ぜんどううんどう)が活発に働きますが、 高齢者では蠕動運動(ぜんどううんどう)は低下します。
誰でも 若い頃に よくお腹が「グルグル」と鳴ったという経験があるのかと思います。
そのため、若い方に起こる「ゲップ」による臭いは生理的なことと考えて下さい。

しかし、「ゲップ」による臭いを気にされる場合には以下のことを注意して下さい。
1.良く噛んで食べる
2.「クチャクチャ」と音を立てて食べない
3.ゆっくりと時間をかけて食べる
4.一口は少量にする
「ゲップ」は、食事の際に大量の空気を飲み込むことで出やすくなるのです。
そのため、口を閉じた状態(クチャクチャと大きく口を開けない)でゆっくりと 時間をかけ、良く噛むことが有効なのです。 早食いはいけません。

Q:病気による口臭はあるのか?(胃がん や 糖尿病…等)

A: 上の項では、「胃から直接食物の臭いが生じることはない」ということを解説しました。
そのため、胃が悪いからといって 直接 胃から臭いが生じることは 特殊なケースを除いて ほぼないと言えます。
それでは 口臭は、必ず口腔内だけの問題なのでしょうか?

胃の病気 や 糖尿病 等全身疾患によって口臭が起こることもあります。
口臭を主訴とされる方の中では稀なことではありますが、 例えば「胃がん」では特有の臭いが生じることが知られています。
「ガンの臭いを嗅ぎ分ける犬」が存在するのをご存知の方もいらっしゃるかと思います。
訓練された犬では 「ガン患者さんの呼気」と 「健常者の呼気」 を嗅ぎ分けられるようですので、 ガン患者さんの呼気には特有の臭いがあるようです。

ただし、こうした病状も直接 胃から臭うのではなく、 ガンが進行すると 臭い成分が発生し、 それが血液中に取り込まれ、 肺のガス交換により 排出され口臭が発生するのです。

その他にもさまざまな病気で臭いを発生することがあります。
例えば、糖尿病の方では、「アセトン臭」という 「甘酸っぱい りんごの腐ったような臭い」を発症することもあります。
「アセトン臭」は、口臭だけでなく、体臭としても臭うことがあります。

また、糖尿病の方は、唾液の分泌量が少なくなることがあります。
口臭において唾液は非常に重要な役割をはたします。
口臭の多くは口腔内の細菌が増殖することで起こります。
人間の口腔内にはこの細菌の増殖を抑える重要な働きがあります。
それが「唾液」なのです。
唾液は細菌の増殖を抑えることができるのです。
糖尿病により唾液の分泌が少なくなると 細菌が増殖しやすくなります。
細菌が増えることで口臭が強くなるのです。

もちろん糖尿病の全ての方に当てはまることではありません。
こうした糖尿病による口臭がある方の場合、 どのように対応した方が良いのかということですが、 基本的に糖尿病を改善させないと根本的に口臭をなくすことはできません。

糖尿病治療とともにプロフレッシュ等の製品で臭いを抑えることになります。
糖尿病で口臭がある方の特徴として、 患者様ご自身では口臭を自覚されない場合が多いです。

病的な口臭の場合、一般的に 常に臭いがあります。
いつも臭っていることが病的口臭の特徴です。
常に臭いがある方の場合、 ご自身の臭いに慣れているため、臭いとは思わないのです。
臭いには慣れがあるのです。
例えば、いつも香水の強い女性の方がいらっしゃったとします。
ご本人からすれば さほど強く感じないのかもしれません。
しかし、あまり香水 等を使用しない男性からすると こうした女性の近くにいると 強い香りを感じることがあります。

また、家には特有の臭いがあります。
例えば、犬、猫 等のペットを飼っている家では、 ペット特有の臭いがある場合があります。
毎日生活している家族の方は、そうした臭いに慣れているため、 さほど 臭いを感じないかもしれませんが、 始めてその家を訪ねた方であれば、 なにか臭いを感じることがあるかもしれません。 臭いには慣れがあるのです。

もちろん 個人差はありますが、 口臭を受診される方の多くは、 こうした病的口臭を持っている方は非常に少ないのです。
口臭を受診される方の多くは 病的口臭ではなく、 生理的口臭、 一時的な口腔衛生状態の不備、 口腔機能の低下 が 関与している可能性が高いです。

先にも説明しましたように 病的な口臭は、通常一日中あるのです。 あったり無かったりする口臭は、ほとんどが生理的口臭なのです。

全身疾患と口臭については、歯科では十分な対応が難しいです。
口臭治療を行っても症状の改善がない場合には、 全身的な病気も疑い、検査が必要となる場合もあります。

*「胃がん」等 全身疾患が関与する臭いについては、もちろん歯科医師である私がお話する内容ではありませんので、ご心配な方は是非 専門医を受診されて下さい。

Q:口臭が「うんち臭い」、「おなら臭い」原因は?

A: 口臭が 「うんち 臭い!」 「おなら 臭い!」 という方がいらっしゃいます。 特に女性の方でこうした症状を訴える方がいらっしゃいます。
こうした症状がある方は、 「胃が悪いから?」 「腸が悪いから?」 と考えられていることがあります。
これは本当なのでしょうか? 原因はなんなのでしょうか?

まず 呼気からの「うんち 臭い」、「おなら 臭い」方は、 その原因が消化器官にある可能性があります。
腸内の嫌気性菌によって作られるガスは、 「おなら」として出ると同時に 血液に含まれ、 肺におけるガス交換を通じて、呼気から出ます。

そのため、腸内の状況(調子)により 呼気からの 「うんち 臭」、 「おなら 臭」 がするのです。 呼気からの「うんち 臭」、「おなら 臭」がある方は、 口臭検査(口臭測定)により 水素ガス や メタンガス の濃度が高い場合があることが さまざまな報告により分かっています。
水素ガス や メタンガス の濃度が高いということは、 どのような意味をあらわしているのでしょうか? 呼気からの「うんち 臭」、「おなら 臭」と どのような関連があるのでしょうか? 腸管において糖質が分解されると水素ガスが発生します。
このうちの約12パーセントが血液に吸収され、 これが呼気として出てきます。

また、腸管内で産生された水素ガス や 二酸化炭素ガス などは、 腸管内の嫌気性菌によって分解され、メタンガスを作ります。
これも血液に溶け込み、呼気に出てきます。
(メタンガスが多く検出される場合には、呼気中の水素ガス濃度は低下してきます)

先に口臭検査(口臭測定)により 水素ガス や メタンガス の濃度が高い場合があることを説明しました。 これは、腸内の環境をあらわしているのです。
つまり、腸内の状況が悪くなると 腸管の活動の低下が起こったり、 腸内細菌の変化が起こり そうしたことで 呼気からの 「うんち 臭」、 「おなら 臭」 が起っている可能性が高いと考えられるのです。

腸内活動の低下 や 腸内細菌の変化は、ストレスによることも多く、 対処方法として、生活習慣の改善 (ストレスを溜めない生活 や 十分な睡眠、適度な運動、正しい食生活、朝昼逆転の生活スタイルをしない…等)により改善されることも多く認められます。

上記の中で「食生活」についてもう少し解説します。
「おならの臭い」はガスの種類によっても変わります。
豆類 や イモ類 などが消化された時にできる発酵型のガスと、 肉 や 卵 などの動物性たんぱく質が消化されることで発生する腐敗型のガスがあります。
臭いとして問題となるのは、腐敗型のガスです。
そのため、肉食生活を改善することが重要です。

ただし、玉ネギ や ニンニクといった、硫黄分の多い食物でも おならの臭いは強くなりますので、注意が必要です。
また、水素ガス や メタンガス の濃度が高い場合、 腸内の異常発酵、 過敏性大腸炎、 慢性便秘、 潰瘍性大腸炎、 等の病気と相関性を持っていることが知られています。