外科用ステントにおけるレントゲン診査

はじめに

先程、インプラントを埋入するためにオルソパントモグラフィーと側方セファロX線写真という2枚のレントゲンを撮影して診査を行いましたがこの2枚のレントゲンにはそれぞれ、利点と欠点があり、その特徴を利用してさらに正確なレントゲン診査をする必要性があります。
それが、外科用ステントを応用したレントゲン診査です。外科用ステントの話しの前に先程の2枚のレントゲンの利点、欠点の話しをしましょう。

パノラマX線写真の利点、欠点

このレントゲンはパノラマX線写真と言い、インプラントを行う際のレントゲンとして最も利用されている方法です。
骨や顎顔面の状態を2次元画像で表示できます。また最小の被爆線量で骨の高さを評価できます。
しかし、パノラマX線にはいくつかの欠点があります。
まず他のレントゲンと比較して高い解像度(鮮明に写るかどうか)が得られません。また2次元画像のため骨の高さはわかっても、骨の幅(インプラントを埋入するための骨幅)はわかりません。
そして最大の欠点はレントゲン撮影時の患者さん自身のポジションエラー(患者さんの位置が変化することによるエラー)が大きいことです。水平的に50~70%、垂直的に10~32%(Hobo S 1989,Engelman MJ 1998, Lund T 1975らによって報告)の歪みが生じる可能性があります。
そのためパノラマX線写真から正確なインプラント埋入の長さを計測することは困難となります。(つまり実際の骨の高さより10~30%拡大されて撮影されるということです)
そのことから正確な長さを計測するために先程のステントの中に10~12mm(この症例では12mmを使用)の長さの金属製のピンを入れ、撮影後の拡大率を計測し、実際の長さを決定します。
※骨の幅の正確な測定は後の項目で説明します。

症例1:外科用ステントにおけるレントゲン診査

下の写真1は診断用ワックスアップによって得られた情報をもとにしてプラスチックでできた外科用ステントを作製しているところです。
このプラスチックステントに金属製のピンを入れる作業を行っているのが写真2です。

症例1:外科用ステントにおけるレントゲン診査

先程の外科用ステントを口腔内に装着し、レントゲン写真(オルソパントモグラフィー)を行ったところです。
オルソパントモグラフィーは約10~30%程度拡大されて撮影されるため金属製のピン(今回は12mmの長さを使用)の拡大率をレントゲン上から計測し、実際の骨の高さを計算します。

外科用ステントで得られた情報をもとにして骨の高さ等の診査を行いインプラントの埋入シュミレーションを行います。

症例1:インプラント埋入後の状態

先程の診査結果をもとにしてインプラントを埋入した状態です。
初診時インプラントを行うには非常に厳しい骨の状態でしたが、診断用ワックスアップや外科用ステントにおけるレントゲン審査およびシュミレーション等を確実に行うことにより適切な位置にインプラントを行うことができました。
このようにインプラントを適切に埋入するためには精密な検査が必要になってきます。こうした診査なしでは長期的に安定するインプラントを行うことはできません。
インプラントが成功するかしないかはこの診査にかかっています。