インプラント治療
ドリルで骨を削らない最新治療:スプリッティング法
はじめに
			インプラント治療はどんどんと進化していきます。
			新しい治療法だからと言って、完全な(完璧な)治療法ということではありません。
			新しい治療法が開発(発表)されても、時間の経過とともになくなっていく(使われなく)治療法もあります。
			この『インプラント最新情報』は、新しい治療法を紹介するとともに、その治療法の根拠や有効性等を報告するものです。
		
ドリルを使用しないで、骨を押し広げる『スプリッティング法』とは?
			従来、インプラント手術は『ドリル』で骨を削り、できた穴にインプラントを埋入するという方法でした。
			通常、インプラントの太さ(直径)は、約4ミリ(メーカーによっても種類によっても多少違います)ですので、始めは1~2ミリ程度の細いドリルで穴を開け、少しずつ太い『ドリル』を使用し、最終的にインプラントより若干小さい大きさまで、骨に穴を開けます。(下図参照)
		
 
	
				
			この治療法は当たり前の治療法として行われてきました。
			しかし、骨を削るため、出血を伴い、腫れや痛みの原因となっていました。
			そこで、近年では、ドリルをほとんど使用しないで、インプラントを埋入するための骨穴を形成する手術方法が開発されてきました。
			ドリルで骨をほとんど削らないので安全、確実、だから外科的侵襲も最小限になります。
		
術式
			この治療法は最初の段階のみ非常に細い器具(ドリル等)を使用することがあります。
			その後、最初の小さな穴に骨を広げる器具を挿入します。
			これは『ドリル』ではありません。
			骨幅を広げる器具を順次大きいものにし、穴をどんどんと拡大します。
		
		
			この時、『骨は本当に広がるのか?』と思われるかもしれません。
			骨には弾性があります。
			骨をゆっくりと押し広げることにより、穴は少しづつ大きくなるのです。
			このような骨の穴を押し広げる器具を順次大きいものにします。
			分かりやすく例えると、木(板)にネジ付きの釘をドライバーでねじ込むようなものです。
		
 
	
		骨の幅が少ない場合に適している
			先に記載したようにインプラントの幅(直径)は約4ミリです。
			約4ミリのインプラントを埋入するためには骨の幅は約6ミリが必要になります。
			もし、骨幅が6ミリ以下の場合には、骨の幅を増させるGBR法が必要になってきます。
		
			GBR法の欠点として治療の難しさがあります。
			5ミリ程度の骨幅であった場合、1ミリ程度の骨幅を増大させるためにGBR法を行うことはさほど難しくありませんが、始めの段階で1~2ミリしか骨幅が無かった場合には、6ミリまで骨の幅を増大させることは非常に難しい治療になります。
			治療の難易度が高ければ、手術時間も長くなり、治療に伴う患者様の大変さも高くなります。(腫れたり、痛みを伴うということです)
		
			また、経験の浅い歯科医師では骨幅を4ミリも5ミリも増大させるような治療は困難を極めます。
			難易度が高いということは失敗(骨が増大できない)する可能性も高くなります。
		
			その点、骨幅を押し広げるこの治療法(スプリットクレスト法、スプリットコントロール法、OAMインプラント法等いくつかの名前があります)は、初診時に狭い骨幅であっても少しずつ押し広げることにより、GBR法等を行わなくても骨幅を改善させることが可能になります。
		
			『スプリット:スプリッティング』とは骨を圧迫し、押し広げるという意味です。
			もちろんこの方法により、GBR法がまったくいらなくなったということではありません。
			『スプリッティング』による骨幅の拡大量には限界があります。
			しかし、確実に治療(骨幅拡大)は楽になります。
		
			例えば、2~3ミリ程度しか骨幅がない場合でも『スプリッティング』により、骨幅を5ミリ程度まで拡大できれば、あと1ミリ分のみGBR法で骨幅を増大すれば、良いことになります。
			GBR法により1ミリ骨幅を拡大させることはさほど難しいことではありません。
			治療の難易度も低くなりますし、リスクも低くなります。
			現実の臨床では骨幅を押し広げる『スプリッティング』と『GBR法』を併用して行うことが多くあります。
		
 
	
		『スプリッティング法』の利点と欠点
『スプリッティング法』の利点
- 骨の削除量が最小限
- 出血が少ない、腫れにくい、痛みが少ない
- 切開を最小限にできる
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				『初期固定』に優れている
				骨の弾性により押し広げるため、インプラント埋入後に骨が収縮(縮む)します。 
 骨が収縮すると、インプラントを『ギュッ』と押さえ込むことになります。
 これが、インプラントの安定につながります。
 インプラント手術直後の安定性のことを『初期固定』と言います。
 初期固定はインプラントの成功にとって最も重要なことの一つです。
- 
				『骨密度が向上』する
				骨を削らず、骨を圧迫して穴を開けるため、圧迫された骨の密度が向上します。 
 骨が柔らかい方や骨粗鬆症の方に有利な方法です。
- 骨を削らないため、手術時の不快感が少ない
欠点:『スプリッティング法』が適応されない場合
			骨が硬い場合には骨を押し広げる『スプリッティング法』は適応されません。
			骨が硬いため、骨を押し広げることができないのです。
			通常、下顎の骨は硬いため、骨を押し広げる『スプリッティング法』は適応されないことがあります。
		
最後に!
			インプラント治療を希望されて来院される患者様の多くは、骨の高さや幅が少なく、インプラントには適していないのが現状です。
			そのため、骨の幅を増大させるGBR法が開発されました。
			その後、サイナスリフト法、ソケットリフト法等さまざまな治療法が開発され、臨床に応用されています。
			できるかぎり、患者様に負担が少なく、治療も簡単に(単純に)、もちろん成功率が高い治療法が良いことになります。
			ドリルをほとんど使用しないで、骨幅を押し広げる『スプリッティング法』は、術後の腫れや痛みが非常に少ない方法ですが、全ての症例において適応されるわけではありません。
		
			大切なことはそれぞれの症例に対し、一番適した治療法を選択(もしくは併用する)することです。
			今後も新しい治療法が開発されるでしょう。
		
			しかし、新しい治療法が開発されたからといってすぐ飛びつくのではなく、きちんとした裏付け(基礎研究)や臨床データ(臨床成績)をみて判断することが大切です。
			このようなことを『エビデンスに基づく医療(EBM)』と言います。
		
『エビデンス:evidence』とは、医学の世界において『治療法を選択する際の根拠』という意味であり、治療方法は歯科医師個人で決めるものではなく、きちんとした根拠をもって行う必要性があるということです。