インプラント治療
ブリッジ、インプラント、被せ物(差し歯)の平均寿命は?
はじめに
この項のテーマは、『ブリッジ、インプラント、被せ物(差し歯、セラミック、金属冠…等)の平均寿命は?』です。
つまり、『歯科で治療した部位がどれくらいもつのか?』ということです。
患者様にとっては、最も気になるところです。
特に、一度治療した部位がダメになった場合や残っている歯が少ない場合、何度も治療を繰り返している場合、インプラント等の自費診療で高額な治療費がかかった場合など治療した部位が、どれくらい保つのかは、大変心配であるかと思います。
もちろん一度治療した部位が、一生ダメにならないことが一番ですが、現実問題として、一度治療した部位が100%大丈夫という治療方法はありません。
それでは、『ブリッジ、インプラント、被せ物の平均寿命』について解説したいと思います。
その前に、『ブリッジ、被せ物(差し歯、セラミック、金属冠…等)』とは?どのようなものが説明したいと思います。
もちろん分かっていらっしゃる方の方が多いかと思いますが、これがどのようなものか分からないと先に進めないので、説明します。
『ブリッジ』とは、歯が欠損している場合の治療法であり、欠損した部位の両側の歯を削り、被せ物を行う治療法です。
歯が1歯もしくは、2歯等の欠損があった場合には、、一般的に行われる治療法です。
さてここで、ブリッジ、被せ物(差し歯、セラミック、金属冠…等)の平均寿命についてのデータを紹介します。
被せ物の種類 | ブリッジ | セラミック | クラウン(金属冠) |
---|---|---|---|
平均寿命 | 約8年 | 約8年 | 約7年 |
これは、多くの論文から得られた情報をまとめたものです。どう思われますか?
次にインプラントの平均寿命ですが、インプラントについてのデータは、まだまだはっきりとはしませんが、多くの研究論文から10年以上は問題なく機能するとされています。(2007年現在)
これは、インプラントの歴史は、他の治療と比較してまだ浅く、インプラント自体も年々進化しているものであり、過去のインプラントのデータとは、違うインプラントになっているためであり、過去のインプラントと現在のインプラントを単純に比較検討することが困難だからです。
そのため、『10年以上は問題なく機能する』という言い方しかできないのです。
ただし、状況が良ければ、40年以上経過しているインプラントも多数あります。
インプラントは、現在のインプラントの状況を考えると、歯周病や噛み合わせに注意し、きちんとメインテナンスを受けていただければ、長期間維持されることと思われます。
生存率のデータの詳細
先程の生存率のデータをもとにし、インプラントとブリッジの生存率のデータを具体的に見ていきましょう。
ブリッジは、装着後約10年で50~70%が生存(残る)
インプラントは、装着後約10年で90~95%が生存(残る)
という論文が多いのです。
これだけを比較するとインプラントの方が優れているということになります。
しかし、この平均生存率は、患者様 個々によりかなり違います。
例えば、
- 歯周病はないか?
- 噛み合わせには、問題がないか?
- ブラッシングが毎食後きちんとできているのか?
- 歯ぎしり等は、ないのか?
- 全身疾患(糖尿病 等)は、ないか?
- 喫煙していないか?
- もともと持っている(歯周病細菌 や 虫歯菌)のリスクは、高くないか?
- 定期検査(メインテナンス)をきちんと受けているか?
- 被せ物の精度
等 さまざまな因子のより治療の予後(将来性)は変わってきます。
また、ブリッジの場合には、土台となる歯が『神経があるか ないか』によってもかなり違います。
上記の生存率は、さまざまな条件により異なるのです。
あくまでも平均です。
しかし、『ブリッジとインプラントのどちらが長く持ちますか?』という質問があれば、『インプラントの方が多くの臨床研究(論文)によれば、平均的には、トラブルも少なく、生存率は高い!』と言ってもいいでしょう。
ただし、インプラントは、平均生存率が高い といっても100%ではありません。
先程、ブリッジの生存率が、装着後約10年で50~70%と書きましたが、これは、あくまでも平均的なデータです。
ブリッジが20年、30年と問題なく経過している症例もあれば、ブリッジをして、1年、2年でダメ(抜歯)になる症例もあります。
ダメになるかならないかは、ブリッジ自体の耐久性ではなく、歯自体の問題 等 上記の1~9の問題があるからです。歯自体がダメになってしまえば、当然ブリッジもダメになるわけです。
インプラントは、ブリッジと比較して成功率は、かなり高いものですが、1~2年でダメになる症例もあります。
そのため、ブリッジが良くてインプラントが悪いということではありません。
しかし、こうした生存率のデータは、治療方針を決定する上で非常に参考になります。
ブリッジの生存率が低いのは なぜか?
それでは、ブリッジの生存率が、インプラントと比較して低いのはなぜでしょうか?
まず、ブリッジと言っても『神経がある歯のブリッジ』と『神経のない歯のブリッジ』とでは違います。
神経のない歯は、もろく 通常の咬む力でも割れてしまうことがあります。
神経のない歯の状態を患者さんに説明する時に"木" に例えてお話しすることがあります。
生き生きとした木は、たたいたり、蹴ったりしても折れたりすることはありませんが、枯れた木は、折れる可能性があります。
神経を取った歯も枯れた木と同じような状態になります。
神経のない歯は、血液供給がなくなるため、脆くなってしまうのです。
また、神経のない歯は、虫歯になっても痛みを感じることがありません。そのため、無症状のまま虫歯は進行してしまいます。
神経のない歯のブリッジの場合、1歯が虫歯になっても ブリッジはすぐには、取れません。他の土台の歯でくっついているためです。
そのため、虫歯が進行してしまい、ブリッジが取れた時には、ダメ(抜歯)となってしまうことが多いのです。
また、ブリッジの欠点として、土台部分の歯で、歯のない部分の力(噛む力)も支えているため、負担が加わりやすいのです。
例えば、1歯欠損(1歯分の歯がない場合)のブリッジでは、土台となる2歯で、3歯分の歯を作製します。
つまり、土台となる歯には、通常の1.5倍の力が加わることになります。
ブリッジは、過重負担となってしまうのです。
噛み合わせがしかりしていれば、問題が起らないこともありますが、多数歯の欠損を無理矢理、少ない土台でブリッジをしたような場合には、時間の経過とともに、土台は、荷重負担となり、噛む力でダメになることもあります。
また、ブリッジとなる土台の歯が、歯周病であった場合、土台が噛む力に耐えきれないこともあります。
また、人間が人工的に作製したブリッジは、厳密に言えば、歯との『境目』が存在します。歯とブリッジ(人工物)との『つなぎ目』です。『段差』と言ってもいいでしょう。
これは、『歯科医師』の技術力(削る精度、型を取る精度)やブリッジ本体を作製する『歯科技工士』の技術力にも大きく左右されます。
また、ブリッジに使用する素材にも左右されることもあります。
より精度の高いブリッジを作製するためには、使用する素材(材料)や『高い技術力をもった歯科技工士』が作製することが大切です。
ブリッジは、患者様個人に合わせた完全なるオーダーメードですから…
ただし、最高の素材(材料)や、『高い技術力をもった歯科技工士』の作製したブリッジでは、保険診療では、難しいことも事実です。
例えば、保険診療で使用できる素材(金属等の材料)は、1種類しか認められていません。
これは、健康保険ができてから今まで ずーっと変わりません。しかし、歯科材料は、日々進歩しています。
できるかぎり、変形の少ない素材や、精度の高い素材が日々 開発されています。
日本の保険診療はそうしたことにまったく対応していないのです。
日本の保険診療で使用しているような材料(特に金属材料)は、世界的にみれば、あまり使用されていないのが現状です。
また、『高い技術力をもった歯科技工士』が十分な時間をかけて、丁寧にブリッジを作製すると、ものすごく時間がかかります。
例えば、ブリッジ一個を作製するのに1週間以上もかかることがあります。
一個(1人分)ですよ。
しかし、保険診療の中で 決められた費用で、採算が取れるようなブリッジを作製しようと思ったら、1日に何個(何十個)も作製しなければなりません。
当然時間的にも無理がかかりますので、最高のレベルでのブリッジは作製できません。
他の業界で例えれば、『カバン職人』がいたとします。
1個の『カバン』を作製するのに、1週間も2週間もかったとします。
1ヶ月間がんばっても2~3個しか作れなかったとします。
それを1個5,000円で売っていたら 間違いなくつぶれますよね。
材料費を引いたら赤字です。
保険で被せ物(クラウン)を作製する場合、歯科技工士の報酬は、1個 約3,000~4,000円(材料込み)です。
1個作製するのに1週間もかかっていれば、材料費を引くと1ヶ月の給料は、1万円にもなりません。
当然つぶれてしまいますよね。
そのため、無理をして1日に何十個も作製しなければならないのです。
これは、保険診療で、被せ物1個の費用が決まっているからです。
決まった料金の中で作製しなければなりません。
インプラントの被せ物(インプラントブリッジ)の場合、治療費は、歯科医院ごとに決定されます。
より精度の高い被せ物を作製しようと思えば、『高い技術力をもった歯科技工士』に作製を依頼することが必要です。
しかし、『高い技術力をもった歯科技工士』は、作製時間もかかるため、コストも高くなります。
その分、歯科技工士は、十分な時間をかけて作製することが可能となります。
これは、完成したブリッジの精度に反映されます。
歯科の被せ物は、患者様 個人個人に合わせた完全なる『オーダーメード』ですから…
しかも非常に技術力を必要とする仕事です。
天然歯のブリッジ と インプラントのブリッジの精度は、こうしたことに大きく影響されます。
ブリッジは、欠損の拡大を進行させる!
ブリッジを行う場所として、最も多いのは、下顎の奥歯です。
この理由として、永久歯の奥歯の中で一番早く生えてくるのは、第一大臼歯と言われる 下顎の奥から2番目の歯だからです。
下顎第一大臼歯は、一番 最初に生えるため、最も虫歯になりやすいのです。
その結果、神経を取る確率が最も高いのも第一大臼歯です。
そして、神経がない歯は、脆いため、抜歯となる確率も高いのです。
下顎第一大臼歯が抜歯となった場合、その奥の第二大臼歯と 手前の歯(第二小臼歯)でブリッジになります。
一般的に、始めてのブリッジとなることが多い部位です。
このブリッジの土台となる歯が 再度虫歯になったり、荷重負担になったりして、ブリッジがダメ(抜歯)になります。
ブリッジの平均寿命は、約8年ということは、前日までのブログに記載したとおりです。
平均的なところでは、 20歳でブリッジになったとすれば、30歳前には、ブリッジは、ダメになるということです。
再度ブリッジをすれば、また 新たに歯を削る必要性があります。
歯はどんどん痛んでいきます。
また、過重負担等で、手前(第二小臼歯)が抜歯となった場合、さらに手前の歯(第一小臼歯)とブリッジをすることになります。
欠損部が増えることにより、最初のブリッジよりも土台の負担はさらに大きくなります。
こうしたことを繰り返すうちに年々欠損部は、拡大されます。
歯をできるかぎり削らない!
神経をできるかぎり取らない!
ブリッジで土台の歯に負担をかけない!
ということが結果的に欠損を拡大させない重要なことなのです。
日本の歯科保険制度ができた頃には、予防という概念はほとんどなく、削って治療を行うことが当たり前でした。
神経を取ること自体にも大きな疑問を持たない歯科医師も多くいました。
また、日本の医療保険制度は、出来高払い制ですので、削らないと医療機関は報酬を得られません。(予防は、ほとんど保険制度に組み込まれていないためです)
さまざまなことが原因となり、削る治療が当たり前になっていったのです。
最後に どんな治療法が一番良いのか?
それでは、歯が欠損している場合、どのような治療法が良いのでしょうか?
このテーマは決してインプラントが優れており、ブリッジはダメという話ではありません。
先にも書きましたように、ブリッジでも何十年も問題なく、経過している方も多くいらっしゃいます。
しかし、現実問題として、ブリッジ(特に神経のない歯のブリッジ)は、多くの問題を抱えていることも事実です。
このシリーズの最初にも書きましたが、ブリッジは、装着後約10年で50~70%が生存(残る)
つまり、『ブリッジの場合、10年で、30~50%はダメになる』ということです。
インプラントは、装着後約10年で90~95%が生存(残る)
つまり、『インプラントの場合、10年で5~10%はダメになる』ということです。
もちろん、ブリッジでもインプラントでも30年、40年… と問題なく機能しているケースも存在します。
しかし、インプラントよりもブリッジや被せ物(差し歯)の方がリスクが高いのは、事実です。
私達歯科医師が毎日診療する中で、神経のない歯がダメになったり、膿みをもったり、歯根破折したりした結果、抜歯となり、ブリッジをやり直したりすることも多くあります。
ダメになったブリッジを見ると『やっぱり…』と思うことも多々あります。
先にも書きましたように、インプラントもダメになることはあります。
100%の治療法は存在しません。
しかし、ブリッジの場合、歯を削って作製しますので、ダメになれば、被害は大きいものです。
土台となる歯が抜歯になることもあります。
また、再度ブリッジを作製するために、新たな歯を削除することもあります。
インプラントがダメになった場合は、その後にブリッジを選択することも可能ですし、再度同じ部位にインプラントを行うことも可能です。
被害の拡大が少ないということは、インプラントの最大の利点と言えます。
ただし、インプラントは万能な治療法ではありません。
虫歯や歯周病のリスクが低く、噛み合わせが安定しているような場合には、ブリッジでも予知性が高いこともあります。
費用という点でもブリッジの方が優れています。
外科処置を伴わないという点からもブリッジは、インプラントよりも優れています。
治療期間もブリッジの方が早く終了できます。
患者様の年齢や全身的な状況も関係してきます。
大切なことは、口腔内の状況をふまえ、その予知性を考えて治療方法を選択することです。