妊娠と歯科治療の問題

妊娠初期および後期の後半以外であれば基本的には妊娠時であっても治療は可能です。

『妊娠時期に歯科治療歯可能なのでしょうか?』という質問があります。
妊娠初期および後期の後半以外であれば基本的には妊娠時であっても治療は可能です。しかし、治療の時期や注意すべきことはあります。
また避けたほうが良い場合もあります。
以下のような事項については注意が必要でしょう。

妊娠と薬の関係

妊娠11週末までは薬の影響が強く出るため控えた方が良いでしょう。

これは胎児の器官が作られる時期であるためであり、薬の影響が出やすい時期です。
下記の図は妊娠期間中の投薬判定表です。

ペニシリン
エリスロマイシン
セファロスポリン
テトラサイクリン不可
シプロフロサキシン不可
ゲンタマイシン注意

もちろん薬は上記以外にも多数ありますので治療にかかる際はあらかじめ妊娠時期を担当医に報告しておく必要があります。

妊娠とレントゲン撮影

科治療で行うレントゲン撮影では胎児には影響はありません。

結論から言えば歯科治療で行うレントゲン撮影では胎児には影響はありません。レントゲンによる胎児への影響として妊婦の腹部に防衛するものなしで、一度に胎児に10rad (放射線量の単位)以上の照射を受けた場合とされています。
歯科治療においてレントゲン撮影をする場合は防護用の鉛エプロンを使用しますし、また歯科レントゲンの場合は直接母体の腹部にレントゲンを向けないこともあり、使用するレントゲン照射量も直接照射した皮膚であっても0.4~0.5radで、胎児に直接レントゲンが到達する量は最大でも0.000002rad であるので大きな心配はいらないと思います。
Bean LR Jr,Devore WDによれば現代の歯科用X 線撮影では防護用エプロンを用いた場合、生殖腺や胎児への照射は実質的に測定できないレベルにある、と報告しています。
しかし、妊娠時期には精神的な問題も多くあるので妊娠の可能性がある場合は治療前に主治医に報告したほうが良いでしょう。

妊娠と歯科麻酔の関係

安定期中は通常の量の歯科麻酔であれば特に問題があることはありません。

歯科で一般的に使用されているリドカインという麻酔は、産婦人科で使用される(無痛分娩時)量と比較すると非常に少ないものです。
また歯科麻酔薬の多くには麻酔の効果を持続させる等の目的からエピネフリンという血管収縮薬が含まれています。このエピネフリン含有の麻酔薬を一度に多量に使用すると胎児への血行が阻害される可能性もあります。しかし、通常の治療で使用する量では問題ありません。それよりも心理的な部分の方が大きいでしょう。精神的に不安定な方や妊娠28週移行(子宮筋が分娩準備状態に入り、ちょっとした刺激で収縮を起こしやすい時期であるため)は緊急の場合以外は応急処置程度にとどめておいた方が無難であると思います。

妊娠と抜歯の関係

妊娠時期に抜歯が必要となる場合も考えられます。

妊娠時期でも抜歯は問題ありませんが、妊娠13週末までは悪阻症状があったり、精神的にも不安定で、胎児も安定しないため緊急でない限り避けた方が良いでしょう。また妊娠28週以降も緊急の場合以外は避けた方が良いでしょう。また抜歯に伴う麻酔や薬の関係から(詳細については“妊娠と薬の関係”、 “麻酔と妊娠と歯科麻酔の関係”を参考にしてください) 14~27週末であっても場合によっては避けた方が良いこともあります。

妊娠と歯周病の関係

歯周病を持っている母親の早産のリスクは7倍になる。

母親が歯周病にかかっている場合の胎児への影響についてはいくつも報告があり、早産や低体重児出産等がその代表的なものです。
以下は妊娠と歯周病菌に関係する報告です。
歯周病の原因菌は歯肉の奥へと侵入していきそこから血管に入り、血液と共に全身をめぐり臓器や器官に侵入します。こうした菌は羊水中にまで影響を及ぼし、早産、低体重児の原因となることがわかってきました。
現在、早産による低体重児出産の割合は1 割程度といわれており、その原因の一つとして膣の細菌感染による炎症があげられる。膣に感染が起こると、胎盤膜での炎症の結果、子宮が収縮、子宮頚部が拡張し、早産となる。
ノースカロライナ大学の歯周病学教授Steven Offenbacherらの研究によると歯周病の原因菌が歯肉の奥へと侵入していきそこから血管に入り、膣感染症が起こっていると報告している。リスクの割合は歯周病が内母親にくらべて歯周病を持っている母親の早産のリスクは7倍になると報告しています。
ちなみに飲酒をする母親の早産のリスクは3 倍です。
歯周病をきちんと治療し、ブラッシングをしっかり行うことでそうしたリスクは防げるのです。早産で生れた新生児の中には呼吸器疾患や脳性麻痺などの長期におよぶ障害を有していることも少なくないのです。
こうしたことにならないように妊娠前にきちんと検査を受け治療を終了させておくことと、妊娠中および出産後にケア-を受けることが必要です。

つわりと口腔内症状

つわりにより嘔吐が頻繁に起こると酸による歯の崩壊が起こります。

また高度な逆流は、食道括約筋の損傷を起こしうるし、その後に胃食道逆流疾患になりやすくなっています。つわりがひどい方は特に注意が必要です。

経口避妊薬と歯周病の関係

妊娠女性の44% に口腔内乾燥が認められる。

El-Ashiry の報告によると妊娠女性の44% に口腔内乾燥が認められるという。
口腔内の乾燥は細菌の繁殖を助長し、虫歯や歯肉炎症にかかりやすい環境となるので口腔内が乾燥しやすい人は注意が必要です。