歯と歯の間に隙間ができる原因!歯が長く見える原因!

はじめに

この項は、本当にインプラント治療が審美的に行えるのかどうかの詳細が記載してあります。
特に、インプラント治療において審美性を重要視される部位である『前歯部』に焦点を絞ってお話していきたいと思います。

現在、インプラント手術自体はある程度完成された段階まできています。(多少は新しい方法等はでてくると思いますが…)
その理由としてインプラントの成功率があります。

きちんとした診断と治療がなされ、その後の適切なメインテナンスが行えれば、その成功率は95%以上という報告が大多数を占めています。
(ただし、一般的に、この成功率には審美的な要素は含まれていません。単に、インプラントがダメにならずに機能しているということだけです)

この『成功率は95%以上』という結果は、十分確立された治療と言ってもいいでしょう。
そのため、現在インプラント治療において重要視されていることは、『審美』です。
いかに美しく、天然歯と見分けがつかない状態に治療が完了できるかが大きなポイントになっています。

しかし、この審美ということが難しいことなのです。
その理由の一つとして、インプラント治療を希望される方の多くは、トラブル(歯周病や歯根破折等)を抱えた状態が長くあったために、歯を支えていた骨が吸収してしまっているからです。
治療前にすでに難症例なんですね。

さまざまなホームページでインプラント治療の症例を見ることはあるかと思います。
ホームページ等で紹介されているインプラントの症例は当然と言えば当然ですが、最も良い結果を得たケースが多いでしょう。
そうした症例を見て、疑問として、『骨が吸収して治療が難しいと言われたが、本当に審美的に治るのか?』『全てのケースにおいて完璧な治療結果は得られるのでしょうか?』

答えは『No』です。
全ての症例において100%の結果が得られるものではありません。
インプラントは骨の中に埋め込まれるものです。
そして歯肉の内側にあるものです。

そのため、治療結果は、骨の状態や歯肉の状態に大きく左右されます。(もちろん術者の技術力にも左右されますが…)
骨の幅や高さが十分にあり、歯肉の厚みにも問題がない症例であれば、治療の難易度は決して高くありません。

しかし、中には骨が痩せてしまい、インプラントを行うのに適していないケースもあります。(詳細は下記の参考リンクをご覧ください)
そうした場合には、インプラント治療後にも審美性を獲得するのが困難になることがあります。

実際、上顎前歯部においてインプラント治療を希望されて来院される患者様の多くは、すでにかなりの問題を抱えていることが多く、『難症例』な場合がほとんどです。
私自身が日常行っている前歯部のインプラント治療では、術前に十分な骨の高さや幅が存在していることは少なく、ほとんどの症例において骨の増大治療(GBR法)を併用します。

『骨が少なければ、GBR法で、増大(再生)させればいいじゃないか?』と思っていらっしゃる方も多くいらしゃいます。
しかし、GBR法は魔法の治療ではなく、どんな状態であっても思い通りに骨を元通りに再生(復元)できるわけではありません。
難症例であればあるほど、治療は困難を極めます。
治療のわずかな“エラー”が審美性を損なう結果を生んでしまうこともあります。
また、骨を大幅に増大させるということは移植する骨の量も多くなります。
難易度の高い骨増大治療(GBR法)は、患者様の負担も大きく、治療後の腫れが長く続くこともあります。

GBR法後の腫れや治療期間について

先程の続きになりますが、腫れの程度を簡単に説明すると、GBR法を行った部位や移植を行った部位等の腫れが、3~10日程度起ることがあります。(もちろん全てのケースではなく、難症例の話です)
腫れの程度はあめ玉を頬に入れたような状態からおたふく風邪のように明らかに遠くからで、腫れているのが分かる場合もあります。

また、稀ですが、“アザ”のような状態が起ることがあります。
“アザ”の原因は“内出血”です。
手や足をぶつけた時にできる“アザ”と同じです。
手や足ならまだいいのですが、これが顔にできると問題はあります。(こうしたことは必ず起るのではありません。稀なケースです)

治療期間も長くかかります。
治療期間の例えとして(最も時間がかかるようなケースです)、上顎前歯部に骨がほとんど存在しない状態だったとします。
始めに骨を増大させないとダメな場合、骨増大治療(GBR法)を行います。
骨ができるまで、3~6ヶ月程度待ちます。
その後、インプラントを埋入します。
インプラントと骨が結合(くっつく)まで、さらに、3~6ヶ月待ちます。

その後、歯肉が薄い場合には、『結合組織移植』なるものを行うこともあります。
そして、仮歯で暫く経過を見ます。
そしていよいよ型を取り、被せ物を装着し、完成です。

ここまで早くても6ヶ月、長ければ、12ヶ月以上かかることもあります。
長いですよね。

最初に書きましたようにGBR法は、魔法の治療ではありません。
患者様にもそれなりの『負担』があります。

それでは、ここまで大変で、時間をかけた場合、審美的に100%満足いくかというと、そうでないケースもでてきます。
毎日臨床に携わっていると、治療が困難な『難症例』に必ず直面します。
こうした『難症例』では、100%の審美性を獲得できないこともあります。
100%の審美性という表現は難しいものです。
審美性の基準は人それぞれですから…

そのため、難症例と判断された場合には、事前に患者様に治療後に起こりうる状況をお話することが大切です。
そして、その対処法等もお話することが必要です。
そして、どこまで、治療を行うかということも大切です。

先程書きましたようにGBR法等のさまざまな治療を組み合わせると非常に時間もかかりますし、患者様の負担もあります。
現在のインプラント治療は審美性が大きなテーマになっています。

いかに、『本当の歯と同じようにできるのか』ということが重要です。
しかし、インプラント治療を行う場合、すでに、骨の吸収や歯肉の退縮が起っていることが多く、100%の審美性を獲得するのを困難にしています。
特に、高度にこうしたことが起っている場合には100%の審美性を獲得するのが非常に困難になります。

難症例で起る審美障害を図で解説

以下では、難症例に起る問題点とその対処法について図で解説していきたいと思います。
※ 以下は前歯部のインプラントにおいてよく起る話ではなく、骨の吸収が高度に起っているような難症例に対する話です。

図1

骨がしっかりあると歯と歯の間の骨もしっかり残っています。
それに伴い、歯肉もしっかりと存在し、歯と歯の間を埋めています。

図2

しかし、歯周病や歯根破折、抜歯後時間が経ってしまうと骨は吸収してしまいます。

図3

骨や歯肉が吸収(痩せて)した状態であるとインプラント 後に、歯と歯の間に隙間(すきま)が若干できることがあります。
また、骨の吸収状態によっては歯(被せ物)自体が長くなってしまうことがあります。
これは、細菌感染や欠損状態が長いことにより骨が吸収してしまったためで、インプラント治療を希望される患者様の多くで起っていることです。
奥歯であれば、審美的にも見える範囲ではないので、さほど問題にはならないことが多いのですが、前歯部では審美性を損なう可能性があります。
現実的には、治療後に歯と歯の間に隙間が多少ある程度や歯が多少長くなる程度であれば、唇で隠れ、見えないために問題となることはさほどありませんが、笑うと歯肉まで見えるような方は審美的問題を生じる可能性があります。
こうした場合には以下のような対処法が必要です。

図4

インプラント治療前にGBR法を行い、骨の増大を十分行う。
歯肉の厚みを増やす(歯肉結合組織移植)。
ということが必要です。
しかし、術前の状態が悪いとこの治療を行っても完璧ではありません。

図5

次に歯と歯の間に開いてしまった隙間を埋めるため、歯(被せ物)を若干横に大きくする方法

図6

長くなってしまった歯(被せ物)は長い部分のみ歯肉の色にし、目立たなくさせる方法があります。
どちらにせよ、骨の吸収が大きかったり、歯肉薄い場合には、歯と歯の隙間ができたり、歯(被せ物)が長く見えるといったことが起こる可能性があります。

歯肉が薄い場合に起る問題

以下は歯肉が薄い方に起ることです。
薄い歯肉は時間の経過とともに退縮していきます。
退縮を起すと審美的に問題を生じる可能性があります。
少しでもこの退縮を防止するためには予め歯肉を厚くする治療を行うことが有効です。
そのためインプラントを埋入時もしくはインプラント埋入後(型を取る前)に歯肉を厚くする治療を行う必要性がある可能性があります。(この歯肉の厚くする治療法を『歯肉結合組織移植』と言います)

歯肉の増大治療(歯肉結合組織移植)

通常、歯周病等の病的な状態でなくとも加齢とともに歯肉は下がってくるものです。
これは生理的な現象です。

歯肉退縮には個人差があり、下がりにくい方もいれば下がりやすい方もいらっしゃいます。
特に歯肉が薄い場合、歯肉が下がりやすくなります。
歯肉が下がってくるとインプラントの金属部分が見えてくることがあります。

奥歯の場合であれば歯肉の退縮がある程度起っても審美的に大きな問題を生じることはありませんが、前歯では問題となります。
歯肉退縮の予防策として歯肉の厚みをあらかじめ増やす(増大させる)治療法があります。
この治療を『歯肉結合組織移植』と言います。
治療方法は上顎の内側(口蓋側)に麻酔を行い、歯肉を採取します。
採取した歯肉を歯肉の薄い部分に移植します。

治療は麻酔をして行いますのでもちろん痛みはありませんが、治療後、採取した上顎の内側の部分に違和感を感じたり、食事がしずらいということがあります。
その期間は1日程度から人により10日程度になることもあります。

この治療法は、インプラント埋入時(インプラント埋入と同時)に行う場合とインプラント埋入後(インプラント埋入後2~3ヶ月後)に行う場合の2つの方法があります。

上顎の前歯部等審美的な部位であれば行った方が無難な治療です。
下図を参考にして下さい。

最後に!

前歯部のように審美性が重要視されるインプラント治療の場合、その症例が持っている難易度を見極めることが重要です。
そして難易度の程度により治療の進め方は違います。
また、患者様が希望されている審美性の希望(満足度)によっても治療方法は違います。

そのためには、事前の診査が非常に重要になってきます。
CT検査もその一つです。
難易度が高い場合には必要な検査の一つです。

この項では、治療前の段階で、高度の骨吸収、歯肉が薄い等の問題がある場合には、治療後に必ずしも100%の審美性を獲得することは難しいことがあることをお話しました。
また、高度の骨吸収があったり、歯肉が非常に薄い場合の対処方法として、GBR法等の骨の増大治療を行ったり、歯肉結合組織移植を行ったり する方法があることもお話しました。

特に前歯部は審美性が重要視されるため、インプラント治療にとって難しい部位になります。
難症例を治療するには、さまざまな対応(治療)があります。
しかし、こうした治療の中には絶対的に行う必要性がある治療と行った方が良いだろうという治療法もあります。
それは、様々な治療を行えば、それだけ、治療期間が長くなり、患者様ご自身の負担も増えていきます。

そのため、術前にどれだけ、診断ができるかが、重要なポイントになります。
インプラント治療の研究はかなり進んできています。
インプラントの基本的なことは十分信頼できるレベルに達しています。

それは、インプラントの臨床応用期間や成功率からも立証されています。
今後は、現在のインプラントに付加的な治療法が加わることでしょう。
そしてさらに良いものになっていくでしょう。

しかし、術前に骨吸収が大きい場合には、やはり治療は困難になることでしょう。
今回のテーマである『審美的にインプラント治療は行えるのか?』ということの重要なこととして、術前に高度に骨吸収を起こさないようにしておくことが最も大切であると思います。
高度の骨吸収があるということはやはり『難症例』であることに違いはなかいからです。

『難症例(骨吸収を起こす)』になる前にきちんとした対応ができるかどうかが一番大切なことです。
具体的なこととして、

  • 歯周病を放置しないこと
  • 歯根破折した場合にはそのまま放置しない
  • 歯がない状態を長期間放置しない
  • 進行した虫歯をそのままにしない

等 が挙げられます。
早期対応、早期治療が歯を残すための最も重要なことですし、難症例にならないポイントです。
これは、歯科以外の医科の分野においても大切なことです。
病状が進行(悪化)した段階での治療は困難を極めますし、場合によっては“手遅れ”になることもあります。

もちろん 医者は“神様”ではありません。
どのような状態でも100%もとに戻せるわけではありません。
早めの対応が最も重要なことなのです。